王様の耳はロバの耳

「王様の耳はロバの耳」

ご存知「王様の耳はロバの耳」の脚色です。

役者6人以上。25分。

2015年 母親クラブのお母さん方と台本持っての上演が初演。



   王様の耳はロバの耳

       台本/広島友好


   ○とき……むかしむかし

   ○ところ……王様の宮殿と床屋の店と森の草っぱら

   ○登場人物

    王様

    床屋(若者)

    女王/小悪魔

    執事/アポロン/床屋の客/葦笛を吹く少年

    床屋のおっかさん

    こだま/葦/小鳥/民衆

    (黒子スタッフ)



歌  ♪だれでもひとつ ひみつがある

    だれにもいえない ひみつがある

    王様の耳は 王様の耳は……

    そう! ロバの耳 ロバの耳♪

   ここは王様の宮殿。王様の部屋。お昼どき。

   ファンファーレが高らかに鳴る。(SE)

   女王と執事が登場。

女王 王の仕度はまだ?

執事 それが……まだでございます、女王様。

女王 まったくなにをしてるのかしら? この頃変よ、あの人は。

執事 しかしオペラが始まる時間にはまだ十分間に合うかと……

女王 わたくしはオペラ劇場に一番に着きたいの。執事のおまえもわかっているでしょ。わたくしはオペラも好きだけど、オペラ劇場の空気がなにより好きなの。

執事 それはよく承知しております。

女王 もしわたくしが王妃でなければ、オペラ歌手になっていたでしょう。ええ、そうだったらどんなに幸せだったか! どう、おまえも一節聞きたいかい?

執事 いえ、もう、女王様の歌のお上手なのは、わたくしめは耳にタコを通りこしてイカができるほど存じております。まったくもって女王様こそ、この国一の歌上手。

女王 この国?

執事 ア、いえ、この世界で一番の。

女王 オーッホホホ! オッーホホホ! そんな当たり前のことを話しているうちにも時間が過ぎてしまいます。(呼ぶ)王様。王様。あなた!

   ファンファーレが高らかに鳴る。(SE)

   王様が登場。頭にターバンを巻いている。ターバンの上に王冠。そのターバンからは髪の毛がはみ出ている。だが、耳は隠れて見えない。

王様 どうしても行かねばならぬのか、王妃よ。

女王 あら、約束でしょ。オペラは夫婦同伴がしきたり。それに今宵はわたくしが主催するオペラ。夫である王がいなくては恥をかきます。

王様 おまえの歌好きにも困ったものだ。――わしはその歌好きでえらい目にあったんだよ。

女王 あなたは二言目には、わたくしの歌好きでえらい目にあった、えらい目にあったとおっしゃるけれど、それはいったいどんなことなの? 口に物を含んだような言い方ね。はっきりおっしゃればいいじゃない。

王様 いや、それが……言えんのだ、どんなことがあっても。

女王 フンッ。わたくしに言わなくても済むことはたいしたことではないのよ、あなた。さ、まいりましょう。

王様 どぉうしてもか?

女王 どぉうしてもよ。

王様 ……ふぅむ。仕方ない。

   女王は王様を伴い部屋を出ようとするが……

女王 (気づいて)待って。そのむさくるしい巻き物はなに?

王様 知らぬのか、ターバンじゃ。

女王 ターバンは知ってます。アラブの王様でもあるまいに、なぜこの国の王たる者がこのようなむさくるしい巻き物など。今すぐ外して下さいな。みっともない。

王様 しからば、帽子を被ってちゃ――

女王 ダメ。取りなさい。(ターバンを取ろうとする)

王様 触るな。やめてくれ。(ごまかして)か、髪が伸びて……これを取ると、頭がめちゃくちゃになるのだ。

女王 だったら、すぐに散髪しなさいな。王のくせに本当にみっともない。

王様 髪を切るのにも、おまえ、ターバンを取らなくちゃならんだろ。

女王 当たり前でしょ! もう、ターバンとオペラとどっちが大事なの?

王様 そりゃ、ターバン。

女王 なんですって!

王様 いや、オペラオペラ。いや、王妃、そなただよ。

女王 わかってるなら早く支度を。わたくしは先に劇場にまいっておりますからね。(急に礼儀正しく)ではごきげんよう!

   女王は一人でオペラ劇場へ出かける。女王はオペラのことを思うだけで気分が高揚し、オペラの一節を歌いながら去る。

   執事が去っていく女王と王様を交互に見ている。

王様 なんだ、その目は。

執事 いえ、別に。なんの他意もございません。

王様 わかっておる。情けないと言いたいのだろ。

執事 め、滅相もございません。

王様 ふむ。好きなだけに頭が上がらぬのだ。知っての通り、わしは婿養子。この王家は王妃の親からわしが婿入りして引き継いだもの。実を言うとこの国で一番偉いのは女王なのだ。ここではわしは肩身が狭い。それにのぅ、惚れたが負けじゃ。わしは王妃を愛しておるのだ、心から。トホホ。

執事 左様でございますか……。

王様 ああ、それにしてもムシャクシャする。頭がうっとうしい。ターバンの中で髪が伸びてはね返ってたまらん。王妃に言われずとも、散髪することにしよう。これ、床屋をここへ連れてまいれ。

執事 ところが……王様、宮殿のお抱え床屋はもうおりませぬ。

王様 なに、お抱え床屋がおらぬのか?

執事 お忘れですか? 王様の髪を切ろうとしたお抱え床屋に、急に王様がお怒りになって、床屋を死刑に……理由はとんとわかりませぬが。

王様 そうであった、あれは早まった……。だれか他の床屋を引っぱって来い。この国一番の腕の立つ床屋を。

執事 しかし万一、その床屋までもが王様の怒りに触れ、死刑になっては町の者が困ります。

王様 ふむ。民は大事だ。国の宝じゃ。

執事 なにをそんなにお悩みなのか、この執事にお話し下さいませ。お悩みのあることぐらい長年務めてまいったこのわたくしめにはわかります。そうでなければ、普段温厚な王様があのような怒りに駆られて床屋を死刑にするなど……どうぞお話し下さいませ。不肖わたくしめ、少しはお力に……

王様 そんなこと気にせずともよい! さすれば、この国で一番下手な床屋をつれてまいれ。そうすればもし死刑になっても、町の者も困らぬだろう。わしも髪を切るだけじゃ。どうせ髪を切ったあと、またターバンで頭を隠す他ないのだから。トホホ。

執事 なぜターバンを? なにを隠しておられるのです?

王様 うるさい! よいからさっさと連れてまいれ!

執事 ははっ。では早速。

   執事はすぐに部屋を飛び出していく。

王様 ふぅむ。どうも困ったものだ……(ターバンに隠れた耳を触りつつ)ターバンを取るわけにもいかぬし……取ればこの秘密がみなにわかってしまうし……取らねば髪が伸びてむさくるしいし……ふぅむ。

   執事がすぐに床屋を連れて戻ってくる。

執事 お待たせいたしました。

王様 おおっ、早かったな。

執事 宮殿の目の前に店を構えておる床屋でございまして、その腕前はこの国でも評判の……(「下手くそ」と口パクで言う)

床屋 王様、光栄にございます。死ぬまでに一度は王様の髪を切りたいと願っておりました。

執事 死ぬまでに一度は……ハハッ、その望み本当になるやも。

床屋 そりゃもう、こんな名誉は一生に一度でございますとも。しかしどうしておいらのような未熟者に、王様の髪を切る栄誉をお与え下さったので?

執事 おまえが打ってつけだからだ。王のお望みなのだ。

床屋 そうですか。(独り言)ふふ。きっとおいらの腕がいいからだ。アハッ。真面目な働きっぷりを認めて下さったにちがいない。うふふ。おっかさんも喜ぶだろうな。うふ。王様の髪を切った床屋だなんて。

執事 なにをブツブツ、しかもニヤついて。

床屋 こりゃ失礼――うふふ――いたしました。

   王様は咳払い。

王様 ウフン。これ、床屋。散髪屋。理髪師。理容師。近う寄れ。

床屋 はいっ。

王様 髪を切る前に申しておく。よいか、これから先なにを見ても、どんなに驚いても、だれにも一言もしゃべってはならぬ。どうだ、誓えるか。

執事 どうだ、床屋。誓えるか。

王様 だれにも言ってはいけない。

執事 (一々繰り返す)だれにも言ってはいけない。

王様 一言たりとも。

執事 一言たりとも。

王様 絶対に。

執事 絶対に。

王様 神に誓って。

執事 神に誓って。

王様 (執事に)おまえ一々うるさいぞ。

執事 おまえ一々うるさいぞ。

王様 おまえじゃ。

執事 おまえじゃ。……アァ、わたくしめにございますか。失礼いたしました。

床屋 喜んで誓いましょう、王様。おいらは床屋、手を動かして髪を切るのが商売。口は動かすのをやめてしっかり閉じてましょう。実は王様の髪を切ることを、おいらより、おいらのたった一人のおっかさんが喜んでるんです。おいら、親孝行できて幸せです。

王様 おまえの母親がな……。よし、気に入った。(執事に)さ、おぬしは下がっておれ。

執事 隣の間に控えております。なにかあれば……お怒りになられるその前に……

王様 もうよい。(手でシッシッと追い払う)

   執事は王の部屋を下がる。

床屋 それでは王様、早速散髪に取りかかります。失礼してターバンを外します。

王様 どうしてもか?

床屋 それはもちろん、どうしても。でないと髪が切れません。

王様 絶対に?

床屋 ええ、絶対に。ターバンの上からでは髪が切れませんから。

王様 ふぅむ。仕方ない。心して外せ。

床屋 はい。心して…………

   床屋はターバンをうやうやしく取る。

   トなんと、王様の耳はロバの耳!

王様 どうじゃ!

床屋 ああっ! ああっ! こ、これは――ロ、ロバの耳!

王様 びっくりしたじゃろ! 肝がでんぐり返しを打ったか!(もうヤケクソ)

床屋 アアッ! アアアッ!

   床屋はびっくりして――笑ってしまいそうになる。床屋は稀に見る笑い上戸である。

   しかし王様の前なので、がまんしきれない笑いを無理にがまんしようとする。

床屋 (口から漏れ出る笑いを必死にこらえようとする)ぶふっ。ぐふふ。うふふふふっ。

王様 (勘違いして)おおっ、恐怖に顔が引きつっておるではないか。

床屋 いえ、そんな。グフッ。(笑いをこらえる)ぐふふふふ。

王様 正直に申してみよ。怖いか? 恐ろしいか?

床屋 ま、まことに恐れ多いことでございま……グフフッ!

王様 よしよし。わしは慣れておるわ。前のお抱え床屋もそんな反応よ。それでつい怒りに駆られ、われを忘れてヤツを死刑に――

床屋 ――え? なんですって?

王様 なんでもないわ。よし、刈れ。髪を切れ。

床屋 はいっ。

   床屋は笑いをこらえつつも髪を切っていく。王様のロバの耳をうまく避けながら。

王様 ああっ、気持ちがええわい!

床屋 しかし王様、なぜこのようなお耳に?

王様 知りたいか。聞きたいか。

床屋 はい。ぜひとも。おっかさんへの土産話に。

王様 なに?

床屋 ――え、あ、そうだった、しゃべっちゃいけないんだった……いえ、決してだれにもしゃべりませんから、どうぞ訳をお教え下さいませ。

王様 秘密じゃぞ。

床屋 はい、秘密でございます。

王様 決してしゃべってはならぬぞ。

床屋 決して、決して、しゃべりません。

王様 ……ふむ。実は歌の神アポロンと歌比べをしたのよ。

床屋 歌比べ。王様が、ですか?

王様 わしではない。アポロンとわが妻女王が歌比べをしたのじゃ。

床屋 歌比べ。あの女王様と歌の神アポロン様が。

王様 そうじゃ。そしてわしがその歌比べの審判だったのじゃ。

床屋 審判。……どうしてまたそんなことを。

王様 実はのぅ……

   舞台の一方に女王が現れる。(SE)

女王 オーッホホホ! オーッホホホ! この世界にわたくしほど歌のうまい者はいなくってよっ。

王様 と、事あるごとに女王が歌がうまいと威張り返って鼻にかけ、吹聴しておったのだ。それが風に乗り、天まで届き、ついには歌の神アポロンの耳に入ってしまったのだ。

   舞台の一方に天上にいるアポロンが現れる。(SE)

アポロン なに? この歌の神アポロンより歌がうまいだと。アーッハハハハ! アーッハハハハ! 生意気な人間め。思い知らせてやる。よっし、歌比べの勝負だ!(太陽神でもあるだけにやたらに明るい性格)

女王 あら、望むところよ。たとえアポロンだろうが、エプロンだろうが、歌なら負けないわ。王よ、あなた、審判やって。

王様 ええっ、わしが審判? でもそれは身内びいき……

アポロン わたしなら構わぬ。このアポロンの歌を聞けば、どこのだれであろうとこのわたしの勝ちだとわかる。

女王 フンッ、偉っそうに。勝負よ、アポロン!

アポロン よし、一本勝負だ!

王様 では、歌比べ、試合開始。まずはわが妻女王から。どうぞ。

   女王が歌う。(近頃流行りの歌)

女王 ♪ありったけの~~ 姿を見せるよ~~ オーッホホホ!

床屋 ……少しもうまくないわ。

王様 では次。全能の神、太陽の神、そして歌の神でもあるアポロン様。どうぞ。

アポロン ♪ありったけの~~ 姿を見せるよ~~ アポロロロ~~ン!

   アポロンの歌は女王よりはるかにうまい。

床屋 こりゃうまいや! だれが聞いてもアポロン様の勝ち。

王様 ところがじゃ……

   女王は結果に自信満々。

女王 さ、判定は? あなた。

王様 むむむ。

アポロン どうした。勝敗はわかりきっておるではないか。アーッハハハハ! アーッハハハハ!

   王様はアポロンの勝ちに旗を上げようとする。だが……

女王 あなたっ。どうなるかわかってらっしゃるわよね。(指関節をポキポキ)

王様 ヒエッ。

女王 あなたっ!

   王様は身悶えつつも女王の勝ちに旗を上げる。

王様 女王の勝ち……!

女王 オーッホホホ! オーッホホホ! オーッホホホ!(勝ち誇って立ち去る)

アポロン (怒り心頭)ンンン、王よ! そのような真実が聞こえぬ耳など人間の耳とも呼べぬわ! ええい、まるでロバの耳だ! 思い知るがいい!

   アポロンは王様に魔法をかける。(SE)

   すると王様の耳はロバの耳に変わってしまった。

王様 アアッ。アアッ。ロバの耳ぃ!

アポロン 愚か者め! そのロバの耳で死ぬまで暮らすがよい!(天に去るSE)

王様 ああっ、アポロン様! アポロン様! アア、ロバの耳じゃ~~! ロバの耳! どうしよう……! …………とこういう訳なのだ。それからはだれにも言えずに秘密にしておるのだ。トホホ。

床屋 そうですか、秘密に。ふふ。それは大変おもしろ――

王様 なに?

床屋 ――いえ、大変おも……おもわしくないことで。

   床屋は王様の髪を切り終える。

床屋 ……さ、王様、髪を切り終わりました。

王様 よいな。このロバの耳のこと、しゃべったらおまえを殺すぞ。

床屋 も、もちろんです。うふ。だれにもしゃべりません。(ト言いつつも口元がニヤついてしまう)うふふ。(王様の頭にターバンを巻く)

王様 どうも信用ならん。よし、もしおまえがしゃべれば……おまえはもちろん、おまえの母親も殺すことにしよう。おまえの母親も死刑じゃ。

床屋 ええっ。おっかさんは関係ないじゃありませんか。

王様 おまえが母親思いなのはさっきの話でよぉくわかった。人はだれしも大切な身内のこととなると、約束を必死に守るものじゃ。

床屋 ……。

王様 心配せずともよい。なにもしゃべらねばよいのだから、しゃべらねば。ほれ、金もたんまり弾もう。きょうからおまえをわしのお抱え床屋にしてやろうぞ。

床屋 ……ありがとうございます。

王様 さてと、オペラへ出かけるか。さあ、行け。約束決して忘れるなよ。(去る)

床屋 はい……。

   床屋は宮殿をあとにする。帰る道々。

床屋 これはどうしよう。王様の耳がロバの耳だったなんて――うふふ、こりゃ笑っちまうな。アハハ。こんなにおかしいの、おいら生まれて初めてだ。ぐふっ。――アァア、なのにしゃっべったら殺されるなんて。

   小悪魔が登場。(SE)

小悪魔 言っちまえよ、こんなおもしろいこと黙ってちゃダメだ。

床屋 だれだ、おまえ?

小悪魔 オレはおまえだよ。おまえの心の中に住む小悪魔だ。

床屋 おいらの心に住む小悪魔……

小悪魔 言っちまえよ。こんなおもしろいことないぞぉ。「王様の耳はロバの耳!」って叫んじゃえよ。おっもしろいぞぉ。

床屋 そうだよな。うふ。おいら、生まれてから今までで一番おもしろい出来事だ。

小悪魔 だろ! さあ、叫べ。「王様の耳はロバの耳!」って。町ゆく人が振り返って大笑いするぞ。

床屋 へへへ。うん――いやいや、でもしゃべっちまうとおっかさんが死刑になっちゃう。

小悪魔 そんなの王の脅しさ。ウソ八百だ。死刑になんてしやしないさ。

床屋 そう……だよね。あのお優しい王様が……

小悪魔 さあ、叫べ。「王様の耳はロバの耳」! 「王様の耳はロバの耳」! ほら!

床屋 (叫ぼうとする)王様の耳は――いやいや約束は約束だ。秘密は秘密。しゃべっちゃダメだ。

小悪魔 おいおい、こんなおもしろいことやめるのか。人の悪口ほど楽しくておもしろい事はないのに。

床屋 そりゃわかってるけど――ええい、消えろ! おいらの心に住む小悪魔め。

小悪魔 おい! 待てよ。

床屋 消えろったら!(強く手を振り払う)消えろ、今すぐ!

小悪魔 オレは消えないからな、おまえの心の中にいつもいる。

   小悪魔、消える。

床屋 ふぅ……。

   床屋は自分の店に帰ってくる。

   店先にはハサミのマークの看板がぶら下がっている。

   店では床屋のおっかさんが店番をしていた。

   椅子にお客が一人いる。

床屋 ただいま、おっかさん。

おっかさん お帰り。どうだった、王様の散髪は? うまくいったかい?

床屋 ああ……。こんなにお金をいただいたよ……。(おっかさんに渡す)

おっか そうかい。そりゃよかった。(感謝)

床屋 うん……。

おっか それにしちゃ元気ないね。なにか失敗でも……

床屋 失敗なんてしやしないよ。

おっか だったら悩み事とか。

床屋 なんにもないよ。心配いらない。おいらはいつものように元気さ。

おっか うん、そうだ。おまえは笑うのと元気だけが取り柄だもんね。

床屋 ハハハ。床屋の腕も褒めてくれよ、おっかさん。

おっか そうだったね、アハハハハ。

床屋 アハハハハ。

   似た者親子はよく笑い、元気である。

おっか そんなことより、お客様がお待ちだよ。

床屋 それを先に言わなくちゃ。(お客に)お待たせしました。きょうはどのような髪型に……

お客 いや、髪はいい。今晩大事な人と会うんでね、ヒゲを当たってもらおうかと。

おっか あらあら、また若い女の子とデートかい。浮気はいけないよ。お宅のおかみさんまた怒るよ。

お客 な、なにを言ってるの。そ、そんなんじゃないよ。でも……かみさんには内緒にしておいてくれよ、アハハハハ。(ごまかし笑い)

床屋 はい、承知しましたよ、鋳かけ屋さん。おっかさん、蒸しタオルを。

おっか ほいよ。(蒸しタオルを取り出す…かなり熱々)アチチチチ。アチチチチ。ほい。(蒸しタオルを放る)

床屋 ほいきた。(受け取る)アチチチチ。アチチチチ。失礼しますっ。(客の顔に蒸しタオルを被せる)

お客 アチチチチ! 熱いよっ。ヤケドするじゃないか。

床屋 しかし、熱々の蒸しタオルでよくヒゲを蒸らさないと、ヒゲを剃るのがうまくいきません。

お客 いいよ、タオルは。急いでるからちゃっちゃっと剃ってくれ。

床屋 はい。……(なめし革でカミソリの刃をとぐ…王様の耳のことを思い出し笑ってしまう)うふ。しかしそれにしてもありゃ傑作だったな。ふふふ。人間あんなことになるんだねェ。へへへ。こりゃどうも愉快だ。ハハハ。(笑いがこぼれてカミソリを持つ手が震える)では、失礼します。ふふふ。へへへ。ハハハ。

お客 (カミソリをよける)ア、危ないよッ。どうしたんだい。いつものあんたらしくないなぁ。

床屋 わかりますか。

お客 わかるよ。

おっか あたしもさっきから変だと。

お客 なにか訳でもあるのかい?

おっか 言ってごらんよ、なにか隠し事があるんだろ? 黙っておくことなんかできないよ、おまえには。

床屋 そうなんだけど……ふふふ。――(思い直し)いやでも、これは秘密なんだ。それにおっかさんのためでもあるんだよ。

おっか あたしのための秘密ぅ? そりゃますます聞きたいねェ。話してごらんよ。え? なに?

床屋 いや、でも――

おっか なに? なに?

床屋 ああっ――もう、言っちゃおうかな。

おっか そうだよ、言ってごらん。

床屋 アアッ、言いたい。ここまで(のどまで)出かかってる。

おっか 全部話してごらんよ、ほら!

床屋 お、お、おうさまの――

おっか おうさまの――?

床屋 おうさまの――

おっか おうさまの――?

床屋 アアッ――ダメだ、やっぱり言えないや! しゃべれば、おっかさんがしけ……(死刑に)

おっか あたしがなんだって?

床屋 なんでもないよ――(独り言)おっかさんに心配かけちゃいけない。

おっか 黙ってると、しまいにゃあたしも怒るよ。

床屋 でも――

お客 いやいや、奥さん。秘密ってのは言っちゃいけないから秘密なんだよ。男にはね、言えないことがあるんだよ。(一人合点して)ん、言いたくてもねぇ、言えないことがあるんだ。実はあっしもね、かみさんに怒られると言い返したいんだけども、なぁんにも言えないんだ。おっかないからね、うちのかみさんは。それでも言いたいことが胸のこの辺まで競り上がってくる。でも、言えない。言いたいけど言えない。苦しい。胸が張り裂けそう。そういうときは……

床屋 (必死になって聞く)え? そういうときはどうするんです、言いたくても言えないときは? 言いたくても言えないときは?

お客 そういうときあっしは――穴を掘るんだよ。

床屋 穴を?(同時に)

おっか 穴を?(同時に)

お客 そう。大きな穴ぼこを。だれもいない森か草っぱらに大きな穴ぼこを掘って、そこに言えないことを言うんだよ。

床屋 穴ぼこの中に?

お客 (再現)このオカチメンコ! ひょっとこどっこい! おまえなんかオレがもらってやらなきゃ、一生独身だったんだぞ。ザマァミロ、ありがたく思え! それからな、小遣いもっとくれ!……てな具合に。

床屋 へえ、なるほど!

お客 そんでもって、そのままだとやばいから穴ぼこに蓋をして、声が漏れないようにしとくのさ。あとは気持ちスッキリ、だぁれも傷つけないし、仕事もがんばれるってわけ。

床屋 なるほど! いい話を聞いたよ、鋳かけ屋さん。おいら――ちょっと失礼しますっ。

お客 ア。

   床屋は仕事をほっぽり出して店の外へ駆け出していく。

お客 おーい、ヒゲまだだけど。

おっか すみませんね。なにがあったんだか。

お客 こりゃよっぽどの秘密だね。もしかして恋の悩みかも。

おっか まさか。あの子に限って。アハハハハ。

お客 そんなことよりヒゲはどうするよ。

おっか あたしが剃りましょう。

お客 できるの、奥さん?

おっか (準備しながら)昔、お客のヒゲを剃っててね、手元が狂ってザックリやってからはやめてたんですがね、なぁに、死んだ亭主の真似すれば……、急ぐんでしょお客さん、注意してやれば、あなた……

お客 (逃げ出している)

おっか お客さん? お客さん! あたしがヒゲ剃りますってば!(カミソリ持って客を追いかけていく)お客さーん!

   さて、ここは森の中。(森のSE)

   床屋は森の中の草っぱらにいる。

   床屋は地面に穴を掘り終えようとしているところ。

床屋 (穴を掘っている)よし。よし。よし、と。このぐらい穴を掘ればいいかな。で、この穴ぼこの中に胸のうちの秘密を思いっ切り叫べばいいんだったな。よぅし! (穴に叫ぶ)おまえのかあちゃん出ぇべぇそぉ!

こだま おまえのかあちゃん出ぇべぇそぉ! おまえのかあちゃん出ぇべぇそぉ! おまえのかあちゃん出ぇべぇそぉ!……(だんだん小さくなる)

床屋 おいらのつむじは三角形!

こだま おいらのつむじは三角形! おいらのつむじは三角形! おいらのつむじは三角形!……

床屋 こりゃおもしろいや。――て、遊んでる場合じゃない。よぅし、今度こそホントに言うぞ。言っちゃうぞ。言ってもいいかな。(穴に叫ぶ)王様の耳は~~ ロバの耳~~!!!

こだま 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!!……

床屋 (さっきとは違う言い回し)王様の耳は~~ ロバの耳~~!!!

こだま (そっくりに言い返す)王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!!……

床屋 (さっきとは違う言い回し)王様の耳は~~ ロバの耳~~!!!

こだま (そっくりに言い返す)王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!!……

床屋 (さっきとは違う言い回し)王様の耳は~~ ロバの耳~~!!!

こだま (そっくりに言い返す)王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!!……

床屋 よぅし! (胸にたまったありったけを)王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!!

こだま 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!! 王様の耳は~~ ロバの耳~~!!!……………………

床屋 ああ、スッキリした。

こだま ああ、スッキリした。ああ、スッキリした。ああ、スッキリした……

床屋 ハハハハハ!

こだま ハハハハハ! ハハハハハ! ハハハハハ!……

床屋 よし、穴ぼこの穴をふさいでと……。……ちょっと確かめてみるかな……よ。(ふさいだ穴を試しに少し開けてみる)

穴ぼこの声 おうさまの――

床屋 (穴ぼこをふさぐ)ほ。

穴ぼこの声 …………。

床屋 ……よ。(また少し開ける)

穴ぼこの声 おうさまのみみは――

床屋 (穴ぼこをふさぐ)ほ。

穴ぼこの声 …………。

床屋 ……よ。よ。よ。(少し開けてはまた閉める)

穴ぼこの声 (開け閉めに連れて)おうさ――おうっ――おうさまのっ――

床屋 (穴ぼこをしっかりふさぐ)ほ、と。これでよし。へへ、スッキリしたら、お腹すいてきちゃった。おっかさぁん、ご飯作っておくれよぉ!

   床屋は森を駆けて家へと戻る。

   …………森の草原に風が吹く。(SE)ふさいだ穴ぼこから葦が生えてくる。

   風に吹かれて、葦がそよぎ、歌をうたう。

葦  (最初はごくごく小声でゆっくりと…次第に大きくテンポよく)

   ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪

   ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪

   ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪

   ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪

   小鳥が飛んでくる。小鳥たちが歌をうたう。

小鳥 チュンチュン! チュンチュン!

   ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~ チュンチュン♪

   ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~ チュンチュン♪

   ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~ チュンチュン♪

   ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~ チュンチュン♪

   町の中を葦笛(または口笛)を吹きながら少年がやってくる。

   小鳥がその少年の肩にとまり歌をうたう。

   すると、少年の吹く葦笛の音が「♪王様の耳はロバの耳♪」のメロディになる。

少年 (そのメロディを吹く)

   (♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪)

   (♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪)

   (♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪)

   (♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪)

   少年は町の中を笛を吹きながら陽気に練り歩く。

   すると、その少年の笛の音に合わせ民衆も歌い出す。

民衆 ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪

   ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪

   ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪

   ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪

   民衆が噂話を始める。(人形たち)

民衆1 ねえねえ、知ってた、王様の耳はロバの耳なんだって。

民衆2 ええっ! 王様の耳はロバの耳なの。

民衆3 そうなんだ、王様の耳はロバの耳さ。

民衆 (噂し合う)王様の耳はロバの耳! 王様の耳はロバの耳! 王様の耳はロバの耳! 王様の耳はロバの耳! 王様の耳はロバの耳!……

   王様が出てくる。ここは宮殿。民衆の声に反応したのか、王様のロバの耳が前より大きくなっている。ターバンからはみ出ている。

王様 うるさ~~い! だれじゃ、わしのことを噂しておるのは!

   王様のあとを執事が追って出てくる。

執事 はっ。民衆にございます、王様。(下を向いてかしずいている)

王様 民衆だと?

執事 そうです、だれもかれもが「王様の耳はロバの耳!」と口々に噂しておるのです。

王様 だれがそのような……デマを。

執事 風です。

王様 風だと。

執事 葦に吹く風に乗って、「王様の耳はロバの耳!」と歌声が響いているのです。

王様 葦や風のせいであるものか。噂を言いふらした者がおるはずじゃ。

執事 と申しますと……

王様 わからんのか、アンポンターノ。あの床屋じゃ床屋。この国一の下手クソの床屋じゃ。ヤツが、わしの耳がロバの耳と言いふらしておるに決まっておる。ヤツを引っとらえてここへ連れてまいれ。

執事 しかしそれは……(ここで初めて顔を上げ、王様の耳を見る)ああっ! お、王様、その耳はいったい……!

王様 ええい、うるさい! 耳の話はうんざりじゃ! 早く床屋を連れて来ぉい!

執事 ははっ。(去る)

王様 どうしてくれよう、床屋のヤツめ。あれほど秘密だと言ったのに。ええい、クソッ。床屋を信じたわしがバカだった! 人ほど信用できぬものはない。

   ……こうなればいっそのことターバンを外して、わしの耳はロバの耳なのだと言ってしまおうか。いや、そんなことをしては民衆からそっぽを向かれる。さすればこの国を治めるのも困難じゃ。第一恥ずかしい。告白するぐらいなら、死んでしまいたい。いやいや、そんなことはできぬ。死ぬなんて絶対にしてはならない。でもこの耳――どうすれば………!

   執事が床屋を引っ立ててくる。

   床屋のおっかさんもおろおろしながら取りすがるようにしてあとをついてくる。

執事 さぁ、来い、床屋め!

床屋 なにするんだよ。痛いよ、痛い。

   執事は床屋を王様の前にひざまずかせる。

執事 王様、床屋を連れてまいりました。

王様 よし。

おっか 王様、ご慈悲を。息子がいったいなにをしたというんです?

王様 なんだ、おまえは?

おっか この子の母です。

執事 床屋の母めにございます。

おっか どうかこの子にお赦しを――

王様 ええい、ならぬならぬ!

   女王が騒ぎを聞きつけやってくる。

女王 なんですか、騒がしい。あなた、なんなの、この騒ぎは……ああ、ああ、あなた、耳が、耳が、ロ、ロバの耳! ムギュ!(気絶する)

執事 しっかり。しっかりして下さいませ、女王様。

王様 ええい、そこで寝かせておけ。

執事 冷たいタオルを持ってまいります。

   執事は急ぎ去る。

王様 床屋よ、おまえがしゃべったのだろう、わしの秘密を。

床屋 いえ、おいらは……しゃべったのはしゃべったのですが、だれにもしゃべっちゃおりません。

王様 なにをほざく。しゃべったのに、しゃべってない? ええい、おまえを死刑にしてくれるわ! いや、約束通り、おまえの母も死刑にしてやる!

おっか ええ、あたしを!

王様 だれか、この者らを処刑台へ!

床屋 ちがうんです、王様! 聞いて下さい。おいらがしゃべったのは、森の野原に掘った穴ぼこの中になんです。穴ぼこを掘って、「王様の耳はロバの耳!」って叫んだだけなんです。決して決して、だれにもしゃべっちゃおりません。

王様 うそをつけ。ならばどうして、だれもかれも民衆一人残らずわしの耳のことを知っておるのだ。

床屋 それは……なんとも……おいらには……

女王 (意識を取り戻して)フン。きっと穴ぼこから葦が生えてきて、葦が風に吹かれて歌ったんでしょうよ。

王様 そのようなことが……あろうはずが……バカな……!

床屋 おいら、王様には申しわけないけれど、おかしくっておかしくって、おかしいから幸せな気分になって、それでも言いたいのに言えなくて、苦しくって苦しくって、穴ぼこ掘って叫んじまったんです。「王様の耳はロバの耳!」って。「王様の耳はロバの耳!」って。

王様 (耳に錐を刺したような痛みが走る)ウゥッ。もうよい、何度も言うな、わしの耳がロバの耳だと。耳が痛くなってきたわ。アァッ、わしは恥ずかしい。悲しい。普通の耳が恋しいのだ。

床屋 だったらなんであのとき歌の神様にウソをついたんです? 負けただなんて。

王様 そ、それは……(女王をチラと見る)

床屋 おいらなら正直に、女王様より歌の神様のほうが歌がうまいって言うのに。どうしてウソをついたんです?

女王 なんですって! ウソですって?

王様 ウホン。それができれば苦労はない。

床屋 どうです、生意気申し上げますが、歌の神様にあやまってみては。

おっか そうだね、それがいいよ。なんでも素直にあやまるのが。

王様 うるさい。王があやまれるか。

女王 そうよ。それにわたくしのほうが歌がうまかったのですから、あやまる必要はありません。そうでしょ、あなた。

王様 ……そ、そうです。

床屋 王様! どうか勇気を。あやまる勇気を。そうすればきっとなにか救いがあるんじゃないかな。

おっか そう思うよ、あたしも。

王様 うるさいっ。この床屋を処刑台に引っ立てろ! こやつの母を死刑にしろ!

床屋 王様、死刑だなんてひどい! おいらは「王様の耳はロバの耳!」って穴ぼこに言っただけだ。「王様の耳はロバの耳!」って。「王様の耳はロバの耳!」って。

王様 イタイ。イタイ。耳がイタイ。

床屋 「王様の耳はロバの耳!」「王様の耳はロバの耳!」

王様 イタタタ。

床屋とおっかさん 「王様の耳はロバの耳!」「王様の耳はロバの耳!」

王様 イタタタ。アイタタタ。

女王 大丈夫、あなた!

   床屋とおっかさんの声に民衆の声も加わる。

床屋とおっかさんと民衆 「王様の耳はロバの耳!」「王様の耳はロバの耳!」「王様の耳はロバの耳!」「王様の耳はロバの耳!」

王様 イタタタ。アイタタタ。イタタタ。ごめんなさい、ごめんなさい。助けて。助けてくれぇ!

床屋 王様、あやまる相手がちがいます。歌の神様に。

王様 アア、歌の神アポロン様! アポロン様! わしが悪うございました。あなた様の歌が、世界で一番上手です! どうかどうか、助けて下され! 助けて下されぇ!

   アポロンが天上に現れる。背に輝く太陽をしょっている。(SE)

アポロン それはまことじゃな、王よ。

王様 まことでございます。真実です。アポロン様の歌が一番でした。

アポロン 女王はどうだな?

女王 仕方ありませんわ……アポロン様の歌のほうがほんのちょーーーっぴりわたくしよりお上手でした。悔しいけど。

アポロン アーッハハハ! アーッハハハ! わかればよい。初めから素直に負けを認めればこんなことにはならなかったのだ。愚かな王よ、おまえに赦しを与えよう。宮殿の裏のパクトロス川でそのロバの耳をすすぐとよい。さすれば元の普通の耳に戻るであろう。さらばだ。――おっと、女王よ、そなたの挑戦、いつでも受けるぞ。アーッハハハ! アーッハハハ!(天上に消える)

王様 アポロン様、ありがとうございます! ありがとうございます! 川ですな、裏の川で耳をすすげば……!

   王様は宮殿を駆けて出る。

女王 ああ、悔しっ。

   床屋とおっかさん。

おっか よかったねぇ、おまえ。

床屋 うん。

おっか あたしゃ肝が縮んだよ。

床屋 ハハハハ。でもおいら、今の王様の顔見てたら、またおかしくなってきちゃったよ。ハハハハ。ふふふふ。

おっか おまえは笑ってばかりでホントに幸せ者だよ。ハハハハ。

床屋 おっかさんこそ! アハハハハ。

ふたり ハハハハハ。アハハハハ。

   床屋とおっかさんは笑いながら宮殿をあとにする。

   ト執事が濡れタオルを持って急いで戻ってくる。

執事 女王様ーー! 女王様ーー! ……あれ? 女王様、もうよろしいので? ――はて、王様はどうなされました?

女王 ま、今回はそういうことにしておきましょう。

執事 はっ?

女王 つまりなんだよ、あのときの歌比べはのどの調子が悪かったのさ。風邪気味だったし。アポロンに花を持たせてあげたっていうわけ。

執事 わたくしめには……なにがなにやら、話の筋がさっぱり?

女王 いいから。わたくしのお部屋にお出で。

執事 へ?

女王 ムシャクシャするから、特別におまえに歌を聴かせてあげるわ。さ、いらっしゃい。

執事 へ? あの、いや、わたくしめは……女王様の歌は……聞きたくない――いえ、そうではなくて……もったいないので遠慮させていただければこのような幸せは……それにこのところ体調が優れませんで……

女王 いいから! さ、早く。

執事 はい、女王様……。

   女王は執事を引き連れて去る。鼻歌を歌いながら。

   執事はしおれて女王のあとをついていく。濡れタオルで自分の額の汗を拭きながら。

   …………

   さて一方、宮殿の裏の川。パクトロス川。(SE川のせせらぎ)

   王様が川辺にやってくる。

王様 この川の水で耳をすすげば、ロバの耳が普通の元の耳になる――と。

   王様が川の水で耳をすすぐ。川の水布が王様を覆い隠す。(SE川のせせらぎが大きくなる)

王様の声 ああっ! あああっ! ♪王様の耳は~~ 王様の耳は~~?

   ふたたび現れた王様の耳は元の普通の耳になっていた。

王様 ♪王様の耳は~~ アハッ、普通の耳じゃ! アッハハハ! アッハハハ!

   歌。エンディング。

歌  ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪

王様 ♪じゃない

歌  ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪

王様 ♪じゃない

歌  ♪王様の耳は~~ ロバの耳~~♪

王様 ♪じゃない

歌  ♪王様の耳は~~~~ ロバの耳~~~~♪

              (おしまい)



◎舞台づくりメモ(今現在思いつくものです)

・みんなで一緒に創りましょう。

・今まで通りの芝居風朗読劇です。

・それぞれ担当を決めておくとスムーズにいくでしょう。

☆舞台係(大道具)……

・黒幕を舞台後ろと袖に張る。他。(広島持ち物)

・宮殿…土布と水布を飾りのように後ろの幕に垂らす(購入または借りる)

・穴ぼこ用の台と茶色(土を表現)の土布

・王様の椅子(飾る、または布で覆う)

・床屋の椅子

・床屋の看板(ハサミのマーク)

・水布…川を表現

☆衣装係……

・基本…王様と床屋以外の人は、下に黒の上下の服を着て、その上から各自の衣装を羽織る。

・全体をギリシア風の衣装の感じにし、布のようなものを羽織って表現してはどうか。(特に王と女王…またはガウンやマント)

・王様…ターバン/王冠/服/靴(サンダル風?)

   ロバの耳(普通サイズと大きいサイズ)

・床屋(若者)…チョッキなど着てそれらしく。

・女王…王冠/服/靴(サンダル風?)/(扇)

・小悪魔…黒服。ツノ。とがったシッポ。顔だけ出る黒い被り物

・執事…黒い布のマント(王様たちが白い衣装として違う色)

・アポロン…肩から白布。背に背負う太陽。月桂冠。

・床屋の客…付けヒゲ。チョッキ

・葦笛を吹く少年…葦笛用の葦。帽子やチョッキなどそれらしく。

   (またはお客の格好のまま)

・床屋のおっかさん…エプロン

・こだま/葦/小鳥/民衆…基本の黒服。

(黒子スタッフ)

☆M音楽・SE効果音係……

・台本の「SE」部分は録音。スピーカーから流す。

   他は基本皆さんの声などで。

・歌は広島の歌う歌を覚えて下さいませ。基本アカペラ。

☆小道具係……

・床屋のハサミ(切れないもの)/カミソリ(切れないもの)

   (なめし革…たぶんマイムで)/蒸しタオル

   (髪を切るときの白い前掛け)

・王の床屋への報酬のお金(巾着袋)

・王の審判の旗(たぶん使わない)

・葦(3人分)

・小鳥の手袋(2人分)

・少年の葦笛(または口笛のみ)

・民衆の人形(影絵・切絵の人形のようなイメージ…多人数)

・執事の濡れタオル

☆黒子スタッフ……

・黒の上下の服。

・場面転換などで少人数必要です。

   (出番のない出演者も黒子として動きます)

・川のシーンなど

☆照明……使わない。

☆他に気づきやアイディアがあればおっしゃって下さいね。

☆その他

   今回、出演者が少人数で負担も大きいかと思いますが、その分出番も多く、楽しみ倍増なので、力を合わせて創っていきましょう。

   よろしくお願いします。

広島友好戯曲プラザ

劇作家広島友好のホームページです。 わたしの戯曲を公開しています。 個人でお読みになったり、劇団やグループで読み合わせをしたり、どうぞお楽しみください。 ただし上演には(一般の公演はもちろん、無料公演、高校演劇、ドラマリーディングなども)わたしの許可と上演料が必要です。ご相談に応じます。 連絡先は hiroshimatomoyoshi@yahoo.co.jp です。

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