戯曲「ブレーメンの音楽隊」
年を取り、役に立たなくなったロバとイヌとネコとオンドリたちが、飼主の元を逃げ出し、ブレーメンの音楽隊に入ろうと旅をする。
途中、気が合わず、ハーモニーもそろわないが、次第に打ちとけてくる。
その夜、大泥棒の屋敷を見つけたロバたちは、協力して泥棒たちを追い払い、ご馳走と夜の宿にありつく。
夜更けに泥棒たちが屋敷を取り戻そうと戻ってくるが、これまた知恵を働かせ協力し合って泥棒たちを追い払ってしまう。
ロバたちはブレーメンへ行くのは「ずうっと先のあした」にして、新しい自分たちの家で一緒に「きょう」を暮らしていくことにする。
役者多くて12人。30分。
ブレーメンの音楽隊 (グリム童話より)
台本/広島友好
◎ときは………むか~しむかし
◎ところは……ある所
◎登場するのは……
ロバ
イヌ
ネコ
オンドリ
飼主の男
ご主人
おかみさん
マダム
コック
大泥棒クロワッサン
手下シロワッサン
フクロウ
みんなで声を合わせて―――
みんな 「ブレーメンの音楽隊」!
陽気で楽しい音楽が流れてくる。
歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
きょうは どんなにつらくとも
あしたは 立派な音楽家
ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
ロバが出てくる。
ロバ むか~しむかしのこと、ある所にロバがいた。ヒヒ~~ン。(ロバのマイム…手はひづめで駆け、後ろ足を蹴る) ロバのあたしは、ある男に飼われてた。
(ロバの回想…効果音楽)
飼い主の男が舞台の一方に現れる。ロバのように疲れ、イライラしている。
ロバ (小麦の袋を運ぶ動作)あたしは長い年月(としつき)、辛抱強く働いた。小麦の入った袋をしょって粉ひき場のある水車小屋まで毎日運んだ。雨の日も風の日も、日差しの強い夏も冷たい雪がふる冬も、一生懸命働いた。
飼い主の男は小麦袋を運ぶロバにムチをくれてやっている(動作)。
ロバ けれども今では身体中にガタがきて、仕事ができなくなってしまった。つまり働きすぎたのさ。すると飼い主の男は手のひらを返したみたいに、あたしを叱りつけた。
飼主 この役立たず! おまえは小麦を運ぶしか能がないのに、その小麦さえ運べないなんて。
ロバ ヒヒ~~~ン。(情けなくて泣く)
飼主 もうこれ以上おまえにエサをやることぁないなァ。いっそのことおまえを……
ロバ あたしは風向きが悪くなったので男の家を逃げ出した。ヒヒ~~ン!(逃げ出していく)
飼主 あ、あれ? ロバのやつ。ロバ! どこだ? ロバ!(ロバを探して去る)
ロバ、物陰から現れ、
ロバ さて、どうしよう? 家を飛び出したはいいけれど、当てがあるわけじゃなし……。――ん、そうだ。あの飼い主の男の友達のいとこの友達がこんな話をしてたっけ。ここからずうっと先のブレーメンって街で音楽隊の楽師を探してるって。よぅし、そこに行けば音楽隊に入れるかも。このままここにいても仕方ないし。それになんたってこのひづめは、太鼓を鳴らしたみたいにいい音がする! 早速あたしはブレーメンの街目指して駆け出した!
ロバは歌いながら歩き出す。
ロバ歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
きょうは どんなにつらくとも
あしたは 立派な音楽家
ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
すると道端にイヌがいる。疲れてしょげている。
ロバ あたしがしばらく歩いてると、猟犬が道端に寝転んでるのに出会った。イヌは駆け回って疲れたようにハアハア言ってた。イヌのやつはいつもあたしらロバにキャンキャン吠えて怖いんだど……やっぱりちょっと気になるなァ。(イヌに)ねえねえ、なんだってそんなにハアハア言ってるの、かみつき屋くん。
イヌ ハアハア……ハアハア。わしは年を取って老いぼれて、日増しにモウロクしてしまってなァ。今では狩りのお供に出かけても走れなくなってしまった。だもんだから、ご主人がこのわしを……
(イヌの回想…効果音楽)
ご主人が舞台の一方に現れる。しゃれたハンティングを被り、猟銃を担いでいる。
主人 おいおい、おまえはすっかり老いぼれて獲物も追えないとんだ足手まといだな。若いころはウサギやキツネを威勢良く追いかけまわして、狩りをよぅく手伝ってくれたが。今となっちゃ、残念だが……(猟銃をイヌに向ける)……バーンッ!とやるしかないかなァ。ハハハハハ!(自分のこの冗談が気に入ったのか笑いながら去っていく)
イヌ ウォウォ~~~ン!(情けなくて泣く) だもんだから、ご主人がこのわしをぶち殺そうとしてるんだワン。だから逃げ出してきたんだ。ハアハア、しゃべるだけでも息切れがする。これからどうやって飯にありついたらいいものやら。泣けてくる。ウォウォ~~~ン!
ロバ それじゃどうだい、かみつき屋くん。これからあたしはブレーメンの音楽隊に入るつもりなんだけど、あんたも一緒に入れてもらったら。
イヌ なに? ブレーメンの……
ロバ 音楽隊。きっと楽しいよ。あたしが太鼓、あんたはラッパを吹いたらいい。イヌの遠吠えみたいにね。
イヌ できるかな、わしに……
ロバ さあ、どうかな。でも――やってみる価値はあるよ。野たれ死にするよりはね。
イヌ ……よし、わしも連れてってくれ!
ロバ よしきた! でも、その代わり……
イヌ その代わり?
ロバ かみつかないでくれよ。
イヌ かみつかないさ、かみつきたいけど。かみつくのはわしの愛情表現なんだが、おまえさんがイヤならかみつきゃしないさ。
ロバ じゃ決まりだ。一緒に行こう、ブレーメンへ!
イヌ ブレーメンへ!
ロバとイヌは一緒に歌いながら歩き出す。
ロバ/イヌ歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
イヌ歌 きょうは 足腰立たずとも(ワンッ!)
イヌ歌 あしたは 元気な音楽家
ロバ/イヌ歌 ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
すると道端に年老いたネコがいる。
ロバ/イヌ しばらく行くとふたりはネコに出会った。
ロバ ずいぶんヨボヨボのばあさんネコだ。
イヌ ネコは道端にうずくまり、雨が三日も降り続いてビショぬれショボぬれになったような、不機嫌で情けない顔をしていた。
ロバ ようよう、なにをそんなにふさいでるの、顔なでばあさん。
ネコ 自分の命が風前の灯みたいにあぶないってのに、だれがのんきに浮かれていられるかね。
イヌ そりゃどうしたわけだワン?
ネコ 実はね、あたしゃもう年だ。歯はグラグラ目はショボショボ。ネズミを追っかけるより、ストーブのそばで日がな一日のどをゴロゴロ鳴らしてるほうが楽チンなんだニャ。でもそれを見たうちのおかみさんが……
(ネコの回想…効果音楽)
おかみさんが舞台の一方に現れる。貧乏暇なし、生活に追われ、余裕がなくキリキリしている。
おかみ なんだい、このネコは! 朝から晩までストーブのそばで日向ぼっこかい。それでもネズミを取ってくれりゃましだけど、今じゃネズミに追われる始末。おまけに身体中ノミだらけ。(自分の身体をかく)アアッ、こっちまでかゆくなるよ。用なしの役立たずは川にでもぶちこんでブクブクおぼれさせてやろうかね、まったく!
ネコ ミャミャミャ~~~ン!(情けなくて泣く)
おかみ (台所を見て)あ、シチューが吹きこぼれてる! (ネコに)そこで待ってるんだよ、老いぼれネコめ!(急いで台所へ去る)
ネコ てわけで、うちのおかみさんがあたしを川へぶちこもうとしたのさ。そこで逃げ出してきたんだけど、この先どうしたもんやら、どこへ行けばいいのか、ニャンとしたものか。ああ、ニャ(泣け)けてくる。ニャニャニャ~~~!
ロバ それじゃどうだい、顔なでばあさん。一緒にブレーメンへ行かないか。あたしらブレーメンの音楽隊に入るつもりなんだよ。
イヌ ちょっと待った。わしはネコは嫌いだワン。ネコほど虫唾の走るものはない。口ばかり達者でいつも寝てばかり。気まぐれで遊び好き。好きなときに好きなことしかしない。
ロバ でも、二人より三人のほうがきっと音楽隊は喜ぶよ。三人いればいろんなハーモニーが奏でられるからね。
イヌ ハーモニー? なんだそりゃ? 食えるのか?
ロバ 食えやしないけど、うまくいくのさ。
イヌ そんなもんか?
ロバ そんなもんさ。(ネコに)どうする、ばあさん。
ネコ でもね、あたしゃ年だし。(イヌをチラと見て)嫌われもんだし。
ロバ そんなことないよ。あんたが真夜中に歌うセレナーデは飛びきり素敵だよ。だからきっと音楽隊にイの一番で入れてもらえる。
ネコ 夜にミャオミャオ歌うのならお手の物さ。でも、それでいいのかい?
ロバ それがいいのさ。
ネコ なるほど、そりゃいい話だ。乗ったよ、あたしゃ!
ロバ じゃ決まりだ! 行こうみんなで、ブレーメンへ!
イヌ/ネコ ブレーメンへ!
ロバとイヌとネコは一緒に歌いながら歩き出す。
三匹歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
ネコ歌 きょうは 涙もかれたけど(ニャッ!)
ネコ歌 あしたは 笑顔の音楽家
三匹歌 ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
するとオンドリが大きな百姓家の門の上にとまっている。
三匹 やがてあたしら三人はある百姓家のそばを通りかかった。
イヌ するとオンドリが門の上にとまって、身体中の力を振りしぼり声を限りに鳴いていた。
オンドリ コ、コ、コ、コケコッコーーー!
ロバ おいおい、きみの鳴きっぷりは骨の髄から腹の底まで染み渡るようだねぇ。いったいどうしたんだい?
トリ きょうはいい天気だぜって知らせてるのさ。きょうの天気はケッコーケッコー、コケコッコ~~~!(ト鳴きながら泣いている)
ネコ それにしちゃ、なぜ涙なんか流してるのさ?
トリ きょうは聖母マリア様の日で、マリア様がイエス坊やの肌着を洗濯して乾かす日さ。そんでもってあしたは日曜で、うちには大勢お客が来る。そしてねぇ、ひどい、コケコッコ。うちのマダムったら血も涙もないよ、このぼくを……
(オンドリの回想…効果音楽)
マダムとコックが舞台の一方に現れる。マダムは見栄っ張りである。そのマダムに、コックは頭が上がらない。
マダム さあ、あしたは日曜で、うちには大勢お客様がおみえになるよ。恥はかけないからね。たんとおいしい料理を作っておくれ。特性スープなんていいかもね。
コック ウイッ、マダム。……しかし……
マダム しかしもかかしもないよ、なんだい?
コック あいにくスープに入れる材料がございません。今年は飢饉に旱魃で農作物は一つも取れず――
マダム あるでしょ。
コック え? まさか?
マダム まさかもとさかもないよ。いるでしょ、あの丸々と太ったオンドリが。コケコッコのコケ子ちゃんが。
コック あれをスープに! なんと!
マダム なんともほくともないよ。きっと脂たっぷり旨味たっぷりのおいしいスープができるでしょうよ。あれはオンドリで卵も産まないし、毎朝コケコケうるさいしね、都合がいいよ。
コック (思わず独り言)口うるさいのはマダムのほうが数倍上かと――
マダム (ジロリと見る)なにか言った、おまえ?
コック いえ、独り言で……
マダム なにぐずぐずしてるの。わかったら、さっさと料理に取りかかっておくれな。
コック ウイッ、マダム。(マダムとともに家の奥に去る)
トリ ほんとねぇ、ひどい、コケコッコ。うちのマダムったら血も涙もないよ、このぼくをスープに入れて料理しちまえってコックに言いつけた。きょう日が沈んだら首をちょん切られる運命。だから鳴ける間にのど振りしぼって鳴いてるのさ。ケッコーケッコー、コケコッコ~~~!(情けなくて泣く)
ロバ それじゃどうだい、赤いとさかのオンドリ君。いっそのこと一緒に逃げたら。あたしらブレーメンの音楽隊に入るんだ。
トリ ブレーメン……! あそこは都会だろ。人も多くて怖くないかい?
ロバ そりゃ都会で怖いかも。でも怖くったって、死ぬよりゃましだろ。きみはいい声してる。あたしらが一緒に歌えば、いい線いくと思うんだ。
トリ ふ~む。(独り言)ロバはノロマでマジメすぎて好きじゃないが、背に腹はかえられない。(ロバに)よし、わかった。のどなら自信あるよ。コケコッコー。一緒に行こう。よろしく頼むよ。
オンドリはロバと握手を交わす。そのうしろでネコが……
ネコ (独り言…オンドリを見て)それにしてもうまそうなお尻だニャ。マダムがスープにしたがるのもわかるよ。あたしもパクリと――
トリ (気配を察して振り返る)ん? なに?
ネコ べ、別に……ニャンでも……。ニャハハハ……(笑ってごまかす)
トリ ……?
ロバ さあ! 行こうみんなで、ブレーメンへ!
他三匹 ブレーメンへ!
ロバとイヌとネコとオンドリは一緒に歌いながら歩き出す。
四匹歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
トリ歌 きょうは 希望もつきたけど(コケッ!)
トリ歌 あしたは 明るい音楽家
四匹歌 ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
しかし、四匹の歌声はちっとも調子が合っていない。
ロバ 待って待って! バラバラに好き勝手歌っちゃダメだよ。大事なのはハーモニーだ。――よぅし、音楽隊に入れるよう練習しながら行くとしよう。
トリ そんな練習しなくても、上手に歌えばいいんだろ。見てな。(オペラ調)コケコケコ~~~~~~!
ロバ ダメだよ。四人が気持ちを合わせなきゃ。音楽隊なんだから。
ネコ 張り切らなくったって適当にやってれば大丈夫よ。ああ、眠い。
イヌ (ネコに怒って)ワンッ! その態度はなんだ。さっきまでショボくれてたのに!
ネコ ニャによ、威張ってばっかりで。人間がついてなきゃ、あんたなんか怖くないわ。
イヌ なにぃ!
ネコ ニャによ!
ロバ ダメだよ、けんかしちゃ!
イヌ (ロバに)なんだワン! 偉そうにっ。味方してやったのに。
ロバ アアッ、かみつかないでくれよ。
トリ もうっ、わかったから。とっととすましちまおうぜ。(独り言…小バカにして)しかしロバ君にうまく指揮ができるのかな? お手並み拝見。
ネコ (オンドリに)あんた、いいねぇ。そうやって立ってるだけで美味そうで……あ、いや、格好よくて。
トリ 気持ち悪いな。なんだかよだれがたれてるぞ、顔なでばあさん。
ネコ ニャニャニャ!(顔をなでてよだれを拭いてごまかす)
ロバ とにかくやろうよ、みんな! 音楽隊に入りたいんだろ。
三匹 (投げやりでバラバラ)はいは~い。
ロバ いいかい、気持ち合わせて。ハーモニーだからね。和音だからね。
ロバの指揮に合わせて、四匹でハーモニーを奏でていく。まずは「ドミソ」の和音。
ロバ ♪ブーーー(「ド」の音で「ブ」と声を伸ばす)
イヌ ♪ブーーー(ロバを真似る)
ロバ ♪レーーー(「ミ」の音で「レ」と声を伸ばす)
ネコ ♪レーーー(ロバを真似る)
ロバ ♪メンーーー(「ソ」の音で「メン」と声を伸ばす)
トリ ♪メンーー?(ロバを真似ようとするが音が微妙にズレる…皆がずっこける)
♪メンーー?(また音がズレる…皆がずっこける)
♪メンーー?(また音がズレる…皆がずっこける)
ロバ ちがうよ、音が。
トリ わざとじゃないよ。気持ちを合わせるのが難しいんだ。ずっと一人でコケコケ歌ってきたからね。
ロバ これからはみんな一緒さ。だから、心合わせて。
先ほどと同じように。
ロバ ♪ブーーー(「ド」の音で「ブ」と声を伸ばす)
イヌ ♪ブーーー(ロバを真似る)
ロバ ♪レーーー(「ミ」の音で「レ」と声を伸ばす)
ネコ ♪レーーー(ロバを真似る)
ロバ ♪メンーーー(「ソ」の音で「メン」と声を伸ばす)
トリ ♪メンーーー(ロバを真似る。今度はうまくいく)
四匹 ♪ブーーレーーメンーーー!(見事にハモる)
ロバ よし、いいぞ!
次は「ドファラ」の和音。
ロバ ♪ブーーー(「ド」の音で「ブ」と声を伸ばす)
イヌ ♪ブーーー(ロバを真似る)
ロバ ♪レーーー(「ファ」の音で「レ」と声を伸ばす)
ネコ ♪レーーー(ロバを真似る)
ロバ ♪メンーーー(「ラ」の音で「メン」と声を伸ばす)
トリ ♪メンーーー(ロバを真似る)
四匹 ♪ブーーレーーメンーーー!(見事にハモる)
ロバ よし! 行こう!
四匹 (ハモって)♪ブーーレーーメンーーー!
ト調子よく音楽が入って歌になろうとするが……
そのとき空に月が出る。
四匹 あれあれ、日が暮れてきた……!
ロバ けれどもブレーメンの街へは一日ではたどり着かなかった。森に差しかかるころ、とっぷりと日が暮れてきた。あたしら四人は――あ、ほら、あそこに大きな木がある。あそこで夜を明かすとしよう。
森に一本の大きな木がある。
ネコ あたしゃこの根っこの所がいいニャ。
イヌ ワンッ! そこはわしの陣地だワン。
ネコ なにさ、少しはレディに遠慮しなさいよ。
イヌ レディって顔か。レバーみたいな顔して。
ネコ ニャにぃ! ワン公め! じゃ、問題です。1+1=
イヌ ワンッ。
ネコ 2+2=
イヌ ワンッ。
ネコ 3+3=
イヌ ワンッ。ワンッ。ワンッ。
ネコ ちがうニャ。全部はずれ。
イヌ くやしいっ。ワンッしか言えない。
ロバ 何度言ったらわかるの、けんかはダメだよ。ばあさんは木の幹に登れるだろ。しなやかな手足があるんだから。
ネコ (褒められて気分がいい)ま、ね。イヌのがさつな手足じゃ木登りはできないだろうからね。
イヌ ワンッ!
ロバ さあさあ。
四匹はそれぞれ自分のお気に入りの場所に寝る。
ロバ ロバのあたしと、
イヌ イヌのわしは、
ロバ/イヌ 大きな木の根っこに横になろう。
ロバ (独り言)しかしイヌのじいさん、寝ぼけてかみつきゃしないかな。
イヌ (独り言)アアッ、まだくやしい。ネコのばあさんだけは許せんなァ。
ネコ ネコのあたしゃ木の幹に寝るよ。
トリ オンドリのぼくは木のてっぺんに。(独り言)ヘヘッ。みんなは知らないだろうけど、ここが一番安全で安心なんだ。
ネコ (独り言)あれあれ、オンドリのやつ、あんな高いとこに寝ちゃ、パクッと食べられないねぇ。
トリ (独り言)それにしてもあしげのロバ君はマジメすぎてリーダーには向かないな。いっそのことこのぼくが……
ロバ それじゃみんな、おやすみ~。
みんな おやすみ~。(おやすみの声がみんなバラバラ)
遠くでフクロウの鳴き声。…………
フクロウ ホゥホゥ…………
ネコ ……寝たかい、みんな。
三匹 …………。
ネコ 夜は目が冴えちゃって。あたしゃ、夜行性だからねぇ。
ロバ 音楽隊は朝が早いよ。さあ、寝た寝た。
フクロウ ホゥホゥ…………
ネコ 寝たかい、みんな。……ああ、なんだかさみしいねぇ。ここは寒いし。あったかいストーブが恋しいよ。家に帰りたくなってきたニャ。
ロバ あたしはヤだな、あんな家に帰るなんて。絶対イヤ。
イヌ どうして?
トリ ぼくなんか家だってどこだって、安心して歌ってられりゃ幸せだけど。(用心して辺りを見ている)
ロバ あたしはイヤ。自由がいい。生まれてからずうっと家と粉ひき場の往復だったんだもの。自由な時間はまったくなし。毎日毎日、土曜も日曜も。もう少しで背骨が折れるとこだったよ。今あたしは初めて――自由だ。怖いくらいだ。あしたっから命令されなくて済むんだもの。
イヌ そうさ。わしらは自由だ。前に進むしかないのさ。
ネコ ニャに言ってんの。あんたは後ろに下がる下がり方がわかんないだけ。ワンワン吠えて、前に突っ走るだけ。
イヌ なにを! 黙って聞いてりゃホントのことばかり言いやがって!
ネコ ニャに? ホントのことならいいじゃない。
イヌ よかないワンッ!
ロバ またけんかだ。寝られやしない。
トこのとき――
トリ ねえねえ、見て見て! 遠くのほうにチラチラ灯(ひ)が燃えてる。ぽつんと明かりが。ここから遠くない所に家があるにちがいない。ねえ、あそこに行ってみようよ。
ネコ ニャに? 家が?
ロバ どうだい、みんな? 行ってみるかい?
三匹 うん、行こう行こう!
ロバ じゃ、決まりだ。さあ、お尻を上げて。ここは居心地がよくないし、真っ暗でちょっぴり怖いし。さあ、もう一踏ん張り。
イヌ ああっ、あそこの家に肉の付いてる骨があったら――
ネコ あったかぁいストーブがあったら――
イヌ/ネコ (思わず腕を組んで一緒に)いいのになぁ!
が、すぐに気づいて、腕を振りほどきそっぽを向く。
イヌ/ネコ フンッ!
ロバ ……さあ、行こう!
みんなは小声で歌をうたいながら行く。
ロバ (歌の中で話す)みんなは明かりのほうへ……明かりはだんだんはっきり大きくなった。とうとう、こうこうと明かりを灯した家に着いた。
みんなは大きな屋敷の前に着く。
ネコ ちょっと待って。用心して。この屋敷の中でする声は……前の前の前の飼い主の声! 大泥棒クロワッサン! もしかしたらここ、泥棒屋敷じゃない!
ロバ よぅし、みんな、ここは取りあえず――帰ろう。(きびすを返し来た道を戻ろうとする)
トリ 待てよ! リーダーだろ。しっかりしろよ。
ロバ でも怖いし。歯科医師の次に。
イヌ (ロバに)ワンッ!
ロバ はい、しっかりしますっ。
イヌ 一番背の高いロバ君が窓に近寄って中をのぞくんだ。
ロバ よぅし! でもみんな……ついてきてね。
みんなは屋敷の裏手へ。(幕の陰へ)
一方、屋敷の中では大泥棒クロワッサンと手下のシロワッサンがご馳走をたらふく食べ、お酒をたんまり飲んで騒いでいる。クロワッサンはヒゲぼうぼう。シロワッサンはヒゲちょぼちょぼ。泥棒稼業で大儲けして祝杯をあげているのだ。
泥棒 アハハハハ! (大ジョッキのビールを飲み、骨付き肉にかぶりついている)それでよ、おれ様が言ってやったわけだ。
手下 なんでしょう、親分。
泥棒 おい、命が惜しかったら有り金みんな出しやがれってな。
手下 さっすが、親分。(口とは裏腹。一生懸命食べていて、話など聞いてない)
泥棒 そしたら相手はビビりやがって、こう言うんだ。
手下 なんでしょう、親分。
泥棒 命ばかりはお助けを。あとは金でも宝石でも、うちの古女房でもなんなりと持ってって下さい、とこういうわけだ。
手下 さっすが、親分。
泥棒 おれ様は言ってやった。てめえの年食った、シワのたるんだ、腹のタポタポゆるんだ古女房なんて用はねえ。金だ、金出せ、宝石だってな。
手下 さっすが、親分。
泥棒 そこでおれ様はそいつのパンツを引っぺがしてやった。
手下 さっす……パ、パンツ?
泥棒 パンツの下にお宝を隠してやがったのさ。ひでえ野郎だぜ、悪徳銀行の頭取ってのは。しかしおれ様の目はごまかせなかった。やつは女房も置いてスタコラサッサ逃げちまったってわけだ。
手下 さっすが、親分!
泥棒 だろ! アハハハハ!
お泥棒クロワッサンと手下のシロワッサンは笑い合う。
一方、ロバが窓から家の中の様子をのぞいている。そのそばにイヌとネコとオンドリ。
トリ ねえねえ、なにが見えるよ、あしげ君。えらくご機嫌のようだけど。
ロバ なにが見えるって、ご馳走の山だよ。素敵な食べ物やおいしそうな酒やジュースが並んでる。それを泥棒たちがご機嫌で食べてるよ。
トリ それがぼくらのご馳走だったらなァ!
ロバ そうとも、みんなでご馳走が食べられたらどんなにいいだろ。
イヌ 腹へったぁ。おい、食っちまおうよ。
ロバ そうだな。
トリ そうだよ。
ネコ でもどうやってさ?
ロバ 協力し合ってさ。三人寄れば文殊の知恵。四人集まれば……ヒソヒソヒソ……ヒソヒソヒソ……
四匹は相談をする。
ロバ (相談中に話す)そこでみんなは相談した。どうやって泥棒を追っ払って、ご馳走を手に入れるか?
四匹 ヒソヒソヒソ……ヒソヒソヒソ……
ロバ いいこと思いついた! いいかい、みんな。ロバのあたしが前足を窓にかける。
イヌ イヌのわしがひょいとロバ君の背中に乗る。
ネコ ネコのあたしゃひらりとイヌのじいさんの上に。
トリ オンドリのぼくはバタバタッと顔なでばあさんの頭の上にとまる。
四匹 よぅし、それ、かかれ!
四匹は窓から顔をのぞかせる。「♪ブレーメンーー!」の歌声(音階)が下から上へ積み重なっていく。
ロバ ♪ブレーメンーー!(泥棒屋敷の窓に前足をかけ)
イヌ ♪ブレーメンーー!(ロバの背中に乗って)
ネコ ♪ブレーメンーー!(イヌの上に乗って)
トリ ♪ブレーメンーー!(ネコの頭の上にとまって)
泥棒達 なんだ! なんだ!
四匹 ♪ブレーーメンーーーー!(見事にハモる)
みんなは窓から顔をのぞかせていろんな顔芸をやる。顔のダンス。四匹は顔を上下左右に動かす。(例えばチャップリンの映画『黄金狂時代』の「パンのダンス」のメロディに乗せて)
例えばこんな顔のダンス……
○顔でひな壇をつくる。下にある顔の上に次の顔が乗っかり、四段の顔のひな壇をつくる。(下から上へロバ、イヌ、ネコ、オンドリの順)そして今度は上の段にある顔から順次下へ引っ込んで隠れていく。
○ひな壇に段々に並んだ顔たちが「いないいないバー」をする。手を開くたびに百面相でおもしろい顔をする。
○顔(首)がろくろ首のように転がる。(黒布の上を)顔だけが上から下へ斜めにすべり落ちる。また上に上がってはすべり落ちる。顔だけが浮いているように見える。ちょっと怖い。
○極めつけは顔の「エグザイル」。みんなの顔が渦巻きのようにグルグル回る。グルグル回りながら吠え立てる。
ロバ ヒヒンッ!
イヌ ワンワンッ!
ネコ ミャ~~~ッ!
トリ コケコッコッ!
ロバ ヒヒンッ!
イヌ ワンワンッ!
ネコ ミャ~~~ッ!
トリ コケコッコッ!
ロバ ヒヒンッ!
イヌ ワンワンッ!
ネコ ミャ~~~ッ!
トリ コケコッコッ!
四匹 (声を合わせ)ウーーーッ、ワッ!(屋敷の中へ)
四匹は窓から屋敷の中へワッと一斉になだれ込む。
窓ガラスがガラガラ割れる。バリバリガッシャーンッ!
泥棒たちは驚いて飛び上がる!
泥棒 ギャーーーッ! バケモノだっ! ママァ! ママァ! 助けてーーーっ! 助けてーーーっ!
手下 親分~~~っ! 待って! 待って! 置いてかないで~~~!
泥棒たちは生きた心地もしないで森の中へ逃げていく。
四匹 やったーーー! ハハハハハ!
みんなは輪になって抱きつき飛び跳ねる。
ロバ よぅし! 食うぞー!
四匹の仲間たちはテーブルに着いてモリモリムシャムシャご馳走を食べ始める。(音楽…「パンのダンス」のメロディ)
ロバ みんなは食べた。モリモリムシャムシャ。この先ひと月は食べないでもいいくらいに。泥棒の食べ残しだけど、そんなの関係ない。だっておいしいんだもん!
ご馳走を食べるダンス。音楽に乗って。
フォークに刺したおいしそうな肉の塊を自分で食べる。
右側の仲間に食べさせる。
左側の仲間に食べさせる。
前で観ている子どもたちに食べさせる……真似。
うれしくなって立ち上がり、腕を組み、ラインダンスを踊る。
……やがてみんな仲良く食べ終わる。
四匹 ごちそうさま~!
ロバ ご馳走を食べ終わり、お腹いっぱいになると、明かりを消してめいめい好きな所に寝転んだ。腹いっぱいだからけんかもない。(大あくび)あぁあ、まぶたがくっつくよ。ロバのあたしは庭先のワラの上に。
イヌ イヌのわしは戸の陰に。
ネコ ネコのあたしゃカマドのあったかい灰のそばに。
トリ オンドリのぼくはもちろん屋根の上に。
ロバ みんな旅の疲れでグッスリ。おやすみ~~。
三匹 おやすみ~~。(声がピッタリ合う)
にぎやかで幸せそうなみんなのイビキ。
真夜中。フクロウの鳴き声。
フクロウ ホゥホゥ。さて、真夜中すぎ、逃げ出した泥棒たちが遠くから家を振り返った。家の明かりは消え、ようやく騒ぎも静まったみたい。
森の中の泥棒たち。大泥棒クロワッサンと手下のシロワッサン。
泥棒 いや~~、さっきはびっくらこいた。心臓が口から飛び出してカエルみたいにピョンピョン跳ねてつかまえるのに一苦労だった。なんだってあんなに肝をつぶしちまったんだろ。あんなにあわくってビクビクするこたぁなかった。らしくねぇ。
手下 らしくねぇです、親分。
泥棒 きっとありゃ、ネズミかなんかだ。なにかのまちがいだ。そうとなりゃ家の様子を探りにいってこよう。
手下 さっすが、親分!
泥棒 行け。
手下 え?
泥棒 おまえが。
手下 え?
泥棒 おまえが行け。
手下 ええ! イヤですよ。親分どうぞ。偉いんだから。さっすが、親分!
泥棒 行け。絶対命令だ。(某独裁者の名前)キムジョン××だ。聞かねえと身体中マヨネーズ漬けにして食っちまうぞ。
手下 へいへい……。
手下はしぶしぶ屋敷の様子を見に出かける。
フクロウの鳴き声。 フクロウ ホゥホゥ…………
手下 ヤだなァ……なんで一人でこんな真夜中に行かなきゃいけないんだろ。親分てんで怖がりだからなァ。出ベソのくせして意気地がない。ヤダヤダ。今度生まれ変わったら、新しい親分見つけよう。(屋敷に着く。中は真っ暗。手探りで進む)ウワ~~やけにひっそりしてるなァ。おまけになんも見えない。シンッとして物音一つしない……台所に入って明かりをつけよう。確かカマドに炭火が残ってたはずだ。それでマッチに火をつけて……おっ、真っ赤にピカピカ光ってるのは、燃えてる炭にちがいない。
ネコ 泥棒が、ネコのあたしのキラキラ光る目を真っ赤に燃えた炭とまちがえて、この目にマッチを(突き立てた――)ニャーーーッ! あたしゃ澄ましちゃいられない。泥棒の顔に飛びかかりフーッとうなって顔を引っかく。(動作に合わせた効果音…以下同様)
手下 ギャーーッ! おったまげてあわくって、裏口から逃げ出そうとしたところ――
イヌ 寝ていたイヌのわしがビックリ飛び起き、足をガブリ――(効果音)
手下 ギャーーッ! 痛くて怖くて庭を突っ切ってワラのそばを駆け抜けようとしたところ――
ロバ 跳ね起きたロバのあたしが、イヤーン、コワーイ、後ろ足でドンッ――(効果音)
手下 ギャーーッ!
トリ 騒ぎで目を覚ましたオンドリのぼくが泥棒の耳元でコケコッコー! コッコクルナー!(効果音)
手下 ギャーーッ! 親分、助けてーーーっ!
手下のシロワッサンは一目散に親分の元へ逃げていく。
四匹は部屋の真ん中に集まってハイタッチをする(サイレント)。そしてまためいめいの場所で寝る。
シロッサンは無事親分の元に逃げ戻る。
泥棒 どうした、どうした、バケツひっくり返したみてえなツラして。
手下 た、た、大変だ。あ、あ、あの家には恐ろしい悪魔のばあさんがいる。そいつがいきなりおいらの耳に息吹きかけて、長い爪で顔を引っかきやがった。んでもって戸口にはナイフを持った男がいて、おいらの足を突き刺しやがった。んでもって庭には真っ黒けのオバケの怪獣がいて、丸太棒で殴りつけてきやがった。んでもって屋根の上には裁判官がいて、「コッコに泥棒連れてコーイ!」って怒鳴りやがった。おいら心の臓も落っことして無我夢中死に物狂いで逃げてきやしたよ。
泥棒 ……ハハ……ハハハ! な、なにをバカ言ってやがる。デタラメを。(実は少し怖い)
手下 デ、デタラメ! だったら親分どうぞ。もう一度家の様子を探ってきて下さいよ。
泥棒 (勇気を奮い起こし)よぅし。悪魔のばあさんもナイフの男も真っ黒けのオバケの怪獣も屋根の上の裁判官も、みんなとっちめてやる! 倍返しだ!
フクロウの鳴き声。
フクロウ ホゥホゥ。大泥棒クロワッサン、一人家の様子を見にいった。
泥棒 ブルルルッ! やっぱり一人はおっかねえなァ。なんも見えねえし。いや、ここでビビって小便チビっちゃ手下どもに示しがつかねえ。(屋敷に着く。手探りで進む)この辺りだと思うんだが……まず台所に行って明かりをつけよう……
屋敷を探りにきた大泥棒クロワッサンは手下と同じ動きをする。しかも超スローモーションのサイレントで少々大げさに。四匹も超スローで大泥棒をやっつける。(サイレントで動作は続く。動作には手下のとき同様の、かつちょっと間抜けな効果音が入る)
音を合図に超スローの動きになる。
ネコの目にマッチを突きつけようとした大泥棒に、ネコは息を吹きかけ、顔を引っかく。(効果音) ギャーッと大泥棒はサイレントで叫ぶ。(動作のみ。実際には叫ばない)
驚いて裏口から逃げ出そうとした大泥棒のお尻を、イヌがガブリとかみつく。(効果音) ギャーッ!と叫ぶ(動作の)大泥棒。
庭を突っ切ってワラのそばを駆け抜けようとした大泥棒の急所を、ロバが後ろ足で蹴飛ばす。チ―ン!(効果音) ウグッ!と急所を押さえ悶える大泥棒。
痛みで悶える大泥棒の耳元で、オンドリが大声で(サイレントで)「コケコッコー! コッコクルナー!」と叫ぶ。(効果音) 鼓膜が破れそうで悶絶する大泥棒。
泥棒 (元のスピードに戻って)助けてくれ~~~~! もう二度とゴメンだ~~~~!
大泥棒クロワッサンはあっちにぶつかりこっちにぶつかり逃げていく。
みんなは大笑い。
四匹 それからというもの泥棒は二度とこの家に寄りつかなかった。
ロバ さてと、みんな、どうするこれから?
ネコ なんだかあたしゃこの家が気に入ったよ。もう一歩も動きたくない。あったかいカマドはあるし。それに……みんなも気に入ったよ。好きだよ、あたしゃ。
イヌ わしもネコのばあさんの勇気には恐れ入ったよ。先頭きってあの大泥棒をやっつけるんだからなァ。
ネコ あんたもガブリと頼もしかったよ。
イヌ いや、あんたこそ。
ネコ やだン、バカぁン!(いちゃつく)
トリ ぼくは毎朝歌ってられるなら、この家だっていいよ。無理にブレーメンに行かなくっても。みんながうるさくなければだけどね。
イヌ だれがうるさいもんか。毎朝天気がわかれば散歩にも都合がいい。
ネコ (オンドリに)あたしゃ大歓迎だね。元からあんたが食べちゃいたいほど好きなんだから。(顔のよだれをなでる)
トリ うれしいなぁ。(ネコの意味するところにまったく気づいてない)
イヌ ロバ君、あんたはどうするよ?
トリ (ロバに)ぼくはね、あしげ君、今の騒動でわかったんだ。きみがいなけりゃぼくたちまとまらないよ。きみがぼくらのリーダーだ。
ネコ どうするニャ?
ロバ ん……(迷っている)
ネコ せっかく友達になれたんだし、一緒に力合わせて暮らしていこうよ。
イヌ ここにはわしらもいれば、ロバ君、あんたの求める自由もある。人にこき使われることもない。
トリ 好きなだけ休んで、好きなだけ働けばいいよ。
ロバ そうだよね……
ネコ じゃ、決まりね!
ロバ いや、だけど、やっぱりあたしは――ブレーメンへ行くよ。
三匹 ええっ! そんなぁ。
ロバ でも、行くのは――あしただ。きょうじゃない。ずうっと先のあしただ。きょうはみんなと一緒にここにいる!
ネコ ああ、うれしいねぇ!
イヌ みんな一緒だ。
トリ そうでなくっちゃ。
ネコ きょうはずうっとずうっと――きょうだもんね。
ロバ うん! でも、あしたはブレーメンへ行くよ。あしたには――きっとね。
三匹 ああ、わかってるわかってる。あしたはきっとブレーメン!
ロバ そうさ、行こう! ブレーメンへ!
みんな おうっ! ブレーメンへ!
ロバ あしたはきっと………!
みんなは声を合わせて歌う。いつまでも………
歌 ♪ブレーメン! ブレーメン!
素敵な街 愉快な街
みんなが 陽気に歌ってる
きょうは どんなにつらくとも
あしたは 立派な音楽家
ぼくら ブレーメンの音楽隊
めざせ! いこう! ブレーメン!
あしたはきっと ブレーメン!♪
(おしまい)
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