キツネとブドウ

戯曲「キツネとブドウ」   広島友好

 イソップ物語の有名なお話をコラージュして楽しい物語に。子どもたち大爆笑!

 既上演。広島友好が子どもたちに落語風に。子どもたちに大変受けていました。

 2021年、劇団らくりん座さんが、コロナで給食時間に会話禁止の子どもたちのために、観賞用の芝居動画に。 

一人でも多人数でも上演可能。


   キツネとブドウ

 演者 むかぁしのこと。お腹をすかせたキツネが、ブドウ棚にブドウがぶら下がっているのを見て、それを取ろうとしましたが、ダメでした。そこで立ち去りながら、ひと言。

   「ありゃ、すっぱいや」

   (改めてキツネのポーズ)キツネです。……太ったキツネです。

    (ブドウ棚のブドウを見上げ)お、うまそうだね。ふふ。(飛びつく。何度か。でも取れない)ああ、クソッ。ありゃ、きっとすっぱいんだ。腐ってるんだ。くさい。毒が入ってる。それに、あれはおいらのじゃないよ。だれかの物なんだ。だれか他所の……

    カラスが飛んでくる。

 カラス カァカァ。

 キツネ ん?(カラスに気づく)

 カラス カァカァ。(ブドウに気づき、くわえて飛んでいってしまう)

 キツネ ア、待て。カラス。返せ、オレのブドウ。こら!(追いかけていく)

 カラス カァカァ。(高い木の枝に止まる)

 キツネ ア。あんな所にとまりやがった。ここは一つね、頭を働かせて……(カラスに)よ。カラスの旦那。大統領!

 カラス カァ?(キツネに気づく)

 キツネ よ、いい男。

 カラス (くちばしにブドウをくわえたまま。声がくぐもっている)わたし、女よ。

 キツネ ありゃ。(褒めまくる)よ、いい女。カラスの女王! 鳥の中の鳥。顔といい形といい素晴しい。その色! 漆塗ったみたいな黒光り。この上声がよかったら……声聞きたいなぁ。声。歌ってもらえませんか。流行の歌でも。

 カラス そぉ。うふ。(気分がいい。口を大きくあけ、歌う)♪カラス なぜ鳴くの カラスは山に~ カァ!(ブドウを落としたのに気づく)

 キツネ おっ!(落ちてきたブトウをたっと取る)へへ! いただき。(カラスに)カラスさん、あんたねェ、顔も形も声もいい。だけどちょっと知恵が足りない。へへへ!(ブドウを持って喜び勇んで駆けていく)

    駆けていき、後ろを振り向き、カラスの追ってこないのを確かめつつ、

 キツネ いゃあ! ハハ! やっと。うまそうだねぇ! どっか景色のいいところででもいただきましょうかね。……ン。池だ。風が……気持ちいいねェ。ここでこのブドウを、へへ。……ん?(自分の前に池に写った自分の姿。自分の持つそれよりおいしそうなブドウを手にしている)こんにちは。どうも。キツネだけに、コンにちは。……あなた、それ、おいしそうなブドウですねェ。わたしのより、こう、粒も大きくて。ゆらゆらして。……どうですか、お近づきのしるしに、わたしのとひとつ(交換を)……いい? いい?(自分がうなづくと池の自分もうなづく) ダメ? ダメ?(自分がうなづくと池の自分もうなづく) いい? ダメ? どっち? じゃ、こうしましょ。いち、に、のさんで同時に交換しましょう。いいですね。いち、にの、さん――と言ったらですよ。いいですか。ハハ。ワン、ツー、スリーじゃないですよ。いちに、いちに、いちに、いち。戻っちゃダメですね。ホントに今度はホントに、いち、に、さんでいきますからね。いち、に、さん!(とブドウを池に写るキツネに投げる。当然ブドウは池の中へ)あ! あ! 落っことしちゃった。ブドウ! おいらのブドウが! まだ食べて……アーアーーー! アアーーー!

    キツネは大声で泣く。

    そこにキツネの肩を叩く人が……

 肩を叩く人 もしもし。

 キツネ アーアーーー! アアーーー! (ふと振り返る)アエッ?

 肩を叩いた人 どうされましたか、そんな大声で泣いて。

 キツネ アーアーーー! どなたですか?

 肩を叩いた人 わたしですか。わたしは神様です。

 キツネ 神様。神様。アーアーーー! ブドウを落っことしちゃったんです。かくかくしかじかでやっと食べようとしたブドウをアーアーーー! アアーーー!アーアーーー! アアーーー!

 神様 そうですか。それは可哀相に。ではわたしが取ってきて上げましょう。

 キツネ 神様、ブドウを。

 神様 そうです。わたしにはできないことはありません。ドブン!(池の中にもぐっていく)

 キツネ ア。ア。神様。ブドウ。お願いします。アアア……

 神様 プハァ(浮かび上がってきて)あなたの落としたのは、この金のブドウですか?

 キツネ (非常に驚く、戸惑う)あっあーどうだったかなぁ! 金のブドウ! 金のブドウですか! そうだったかなぁ! そうかもしれないなぁ! でも良心が! いや、でも!

 神様 ちがうのですね。ドブン!(池の中にもぐっていく)

 キツネ あ! 金のブドウにしとけばよかった。アア、金のブドウ!

 神様 プハァ(浮かび上がってきて)あなたの落としたのは、この銀のブドウですか?

 キツネ アア、銀! 銀もいいかも! シルバーですか! シルバーも高いですよね! でも良心が! どうしよ……

 神様 ドブン!(池の中にもぐっていく)

 キツネ 待って神様! アア、銀にしとけばよかった! 銀! シルバー!

 神様 プハァ(浮かび上がってきて)あなたの落としたのは、この巨峰ですか?

 キツネ キョホッー! そうきましたか! キョホッーですか! ジャパニーズキョホッー! うまいそうですね。ギリシアでも評判……でも、ンン、ち、ちがいますぅ……!

 神様 (微笑を浮かべ)あなたはまれに見る正直者のキツネですね。キツネにしては珍しい。あなたの落としたのはこの普通の山ブドウでしょ。神様はなんでもお見通しです。正直者のあなたにはこの山ブドウに巨砲もつけて差し上げましょう。さようならーー。(池の中に消えていく)

 キツネ (山ブドウと巨砲を受け取り)ア、神様。神様! ま、ま、ハハ、いいか。ね、二つも手に入ったことだし。……というわけなんだよ。

    そこはキツネの酒場。件のキツネが、たまたま隣り合わせたキツネに先の一件をしゃべっている。

 後から出てきたキツネ へえへえ、そうですか。そんなことが。

 前から出ているキツネ そうなのよ。

 後のキツネ 金のブドウ……銀のブドウ……んで、巨砲に山ブドウ。へえ!

 前のキツネ そういうこと。不思議なことだよ。(ぶどうを食べている)あなたも一つ。

 後のキツネ ア、こりゃどうも。(一粒食べて)こりゃ。うまい。恐るべしジャパニーズ。(皮と種を出す)へえ、そうですか。神様が。

 前のキツネ そうそう。驚いたのなんの。

 後のキツネ こりゃいいこと聞きました。金のブドウ、銀のブドウ。――あ、ちょっとわたしおトイレへ。(席を立つ)

    後のキツネはトイレに行く振りをして店を出ると早速、件の池へやってきた。見た目はなんら変わらないので後のキツネもキツネと記す。

 キツネ ここが、例の池ですか。ブドウを落として、金のブドウ、銀のブトウと……ハハ。一応ね、ブドウを持ってまいりました、わたくし。(手にブドウ)ちっちゃいですが。(手のひらに乗る小人ほどの大きさのブドウ)これをね、池に落としまして。ね。で、次は、泣くんでしたね。(大仰にウソ泣きをする) アーアーーー! アアーーー! アアーーー!(辺りを振り返って様子を覗き見したりする) アーアーーー! アアーーー!

 神様 もしもし。

 キツネ 出た、神様。

 神様 なんです、どうしてわたしが神様だと……

 キツネ (まずいと思いさらにウソ泣き) アーアーーー! アアーーー!

 神様 どうしました、そんなに泣いて。

 キツネ 池に、池に、こんな立派なブドウを落として。

 神様 ブドウをですか。

 キツネ まだ食べてないん……

 神様 そうですか、かわいそうに。ではわたしが取ってきて上げましょう。ドブン!(池の中にもぐっていく)

 キツネ アア、神様! もぐっちゃった。ハハ。金のブドウ。銀のブドウ。うふふ。(心待ち)

 神様 プハァ(浮かび上がってきて)あなたの落としたのは、この……ちっちゃいブドウですか?

 キツネ そうきましたか! いきなりそうきましたか! ん~~どうでしょう! それは……ちがいます!

 神様 (すべてお見通しでしたよ、という顔をして)あなたはまれに見るうそつきですね。あなたの落としたのはこのちっちゃいブドウでしょ。わたしはなぁんでも知ってるんです。知らないことはないんです、神様なんですから。このブドウも、(ちっちゃいブドウを食べる)なかなか。プ。(皮を飛ばす)うまいじゃないですか。(フサを残らず一口で食べてしまう) プププププ!(皮を口をすぼめて勢いよく吐き出す) あなたには何もあげません。さようなら~~!(池の中へもぐっていく)

 キツネ アア、神様! アアアア! クソッ。 オオーイ、神様が出たぞ! 神様が出たぞ! この池は神様が出るぞ!

    他のキツネたちがやってきて、

 他のキツネ え? ホント? 神様出たの?(まるっきり信じている) へえ、この池にブドウを……そしたら神様が。じゃブドウをね。大きいのを落として。もう一つ。三つも。で、泣くの? アーアーーー! アアーーー! アアーーー!……

 キツネ (池を見るが、何も出てくる気配がない)

 他のキツネ ……出ないじゃない。ウソつくんじゃないよ。この忙しいのに。うそつきキツネ。おまえみたいなのがいるからキツネの評判落とすんだよ。行こう行こう。(行ってしまう)

 キツネ (一人になって) アーアーーー、神様―――!

 神様 (さっと出てきて)なんでしょう?

 キツネ 神様! (みんなを呼ぶ)神様出たぞ! 神様出たぞ!

 他のキツネ (やってきて)なになに? 出たの?

 キツネ ほら、そこに……あれ?

    すでに神様の姿はない。

 他のキツネ ……いねえじゃない。

 キツネ いや、これは……神様!

 他のキツネ おまえみたいなうそつきは、キツネの国にいられないよ。出てけ!(キツネを突き飛ばす)

 キツネ アアッ!(キツネの国を追い出されてしまう)

    一人とぼとぼ道なき道を歩きながら、

 キツネ アア、キツネの国を追い出されちゃった。この師走に……。風が……ブルル……身に染みるよ。(だんだん北風が強くなってくる…風をまともに受け)……ウッ、寒ッ。風が! か、ぜ! サブい! うウッ!

    すると今度は風が治まり、次第に太陽の熱で暑くなってくる。

 キツネ (のど元を手でぬぐい)こりゃ。あれ? 暑くなって。日差しが。太陽が。熱っ。暑っ。

    とまた北風が。

 キツネ うウッ! サムっ! 風が! カツラが取れる! はげカツラが! (キツネの毛が強い北風に吹きまくられる…言葉にならない)ウウッ!  アアッ! ウウウウッ!

    と思ったら、また太陽が熱くなる。

 キツネ ア? 熱いっ! アツアツっ! (足元の地面が焼けた鉄板のように熱くなる。足を必死に踏み替える)アツアツアツアツアツアツアツアツアツアツっ!

    北風が吹いて寒くなったり、太陽に焼かれて熱くなったりが急激に交互に襲ってくる。

 キツネ サムっ! アツっ! サムっ! アツっ! サムっ! アツっ! サムっ! アツっ! サムっ! アツっ!

    次第に太陽が優勢になってくる。

 キツネ 暑い。暑いよ。アアッ! (キツネは自分の毛皮を脱ぎ捨てる)こりゃ、もう。毛皮を。ハァハァ……あれ? 普通の天気になったよ。北風と太陽がオレで遊んでやがったな。

    キツネは自分の生まれ変わった姿に気づく。

 キツネ (毛のない腕を触り)なんだか、スベスベ。お肌が。毛がない。まったく毛がなぁい。人間みたい。

 神様 (はるか天上の彼方から)これ、キツネよ。

 キツネ ア、神様。ごめんなさい。わたしが悪うござんした。

 神様 キツネよ、おまえは罰を受けたのです。もうキツネには戻れません。

 キツネ キツネじゃない! じゃ、いったいわたしはなんですか?

 神様 おまえはきょうから人間です。

 キツネ 人間! 人間ですか、あの。よりによって。それだけは……

 神様 おまえは人間に生まれ変わったのです。

 キツネ わたしは人間になって、なにをすればいいのでしょう?

 神様 (非常に感心して)深ぁい質門ですね。人間として生まれ何をしたらいいのか? わかりません。神様にはまったくわかりません。

 キツネ 神様でしょ?

 神様 神様は何にもわかりません。どうしたらいいのか、さっぱりわかりません。人間が生まれてこの方、わかったためしがありません。

 キツネ じゃ、神様は何をしてるんですか?

 神様 神様は人間の祈りを聞くだけです。それだけです。それしかしてきてません。

 キツネ でも、わたしはなにを……何かすることを与えてください。

 神様 そうですね……あなたに人間に……人間は二本の手が使えます。道具が使えます。それがキツネと人間のちがいです。おまえにこのペンシル(ペンシルの発音がやたらにいい)をあげましょう。

 キツネ ペンシルを。

 神様 そうです、ペンシルです。そうして今までおまえの身の上に起こった愚かな出来事をお話に書くんです。

 キツネ ペンシルでお話を。

 神様 のちの世の人間たちにおまえの愚かさを伝えるのです。

 キツネ お話を。

 神様 おまえに名前をあげましょう。物語を書く者にふさわしい……イ、イ、イ、イ、イソジン。どうです?

 キツネ それはどうでしょう! まるでうがい薬みたいな。

 神様 嫌? そうですか。では、……プにしましょう。それも上にちっちゃい「ッ」の付いた「ップ」です。「ップ」。

 キツネ 「ップ」はどうでしょう。子どもにいじめられそう。

 神様 いやですか。では、イソジンとップを二つを合わせて、田中ゴロハチ。

 キツネ 全然合わさってない! それに日本人みたい。田中ゴロハチって。

 神様 冗談です。じゃ、おまえはきょうからイソップです。さようなら~。

 キツネ あ。神様。去り際があっさりしてる。……そうですか、ペンシルでお話を。ふむ。そうですか。じゃ、ひとつ……(ペンシルでお話を書き始める)「きのうのこと」……じゃないか。……「むかぁしのこと。お腹をすかせたキツネが、うふふ、ブドウ棚にブドウがぶら下がっているのを見て、これを取ろうとしましたが、ダメでした。そこで立ち去りながら、ひと言。

    「あれが、しっぱい(すっぱい)の始まりだった」                   (おしまい)

広島友好戯曲プラザ

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