戯曲「キツネとブドウ」 広島友好
イソップ物語の有名なお話をコラージュして楽しい物語に。子どもたち大爆笑!
既上演。広島友好が子どもたちに落語風に。子どもたちに大変受けていました。
2021年、劇団らくりん座さんが、コロナで給食時間に会話禁止の子どもたちのために、観賞用の芝居動画に。
一人でも多人数でも上演可能。上演時間15分。
キツネとブドウ
作・広島友好
演者 むかぁしのこと。お腹をすかせたキツネが、ブドウ棚にブドウがぶら下がっているのを見て、これを取ろうとしたが、ダメでした。そこで立ち去りながら、ひと言。
「ありゃ、すっぱいや」
(改めてキツネのポーズ)キツネです。少し太って、(髪の)毛の薄くなりかけたキツネです。
(ブドウ棚のブドウを見上げ)おほぅっ、うまそうだな。よしっ。(飛びつく。何度か。でも取れない)ああ~、クソッ。ありゃきっと、すっぱいんだ。腐ってるんだ。くさい。毒が入ってる。それに、あれはおいらんじゃないよ。だれか他所の……
カラスが飛んでくる。
カラス カァカァカァ。
キツネ ん?(カラスに気づく)
カラス カァカァ。(ブドウに気づき、くわえて飛んでいってしまう)カァ!
キツネ ア、待て。カラス。返せ、オレのブドウ。こら!(追いかけていく)
カラス カァカァカァ。(高い木の枝に止まる)
キツネ ア。あんな所に止まりやがった。ここは一つ、頭を働かせて……(カラスに)よ。カラスの旦那。大統領!
カラス (キツネに気づく)カァ?
キツネ いい男。
カラス (くちばしにブドウをくわえたまま。声がくぐもっている)わたし、女よ。
キツネ ありゃぁ。(褒めまくる)よ、いい女。カラスの女王! 鳥の中の鳥。顔といい形といい素晴しい。その色! 漆塗ったみたいな黒光り。この上声がよかったらなぁ……声聞きたいなぁ、声。何か一つ、流行の歌でも歌ってもらえませんか。
カラス そうぉ。うふ。(気分がいい。歌う)♪カラス なぜ鳴くの カラスの勝手でしょ、カァ!(と口を大きく開いてしまう。ブドウが落ちる)
キツネ (落ちてきたブトウをたっと取る)おほぅっ! へへ!(カラスに)あんたねぇ、顔もいい形もいい声もいい。だけどちょっと、知恵が足りない。へへへ!(ブドウを持って喜び勇んで駆けていく)
駆けていき、後ろを振り向き、カラスの追ってこないのを確かめつつ。
キツネ ヤハハ! やっと。うまそうだねぇ! どっか景色のいい所ででもいただきましょうかね。……ン。池だ。きれいだねぇ。風が……気持ちいい。……ん?(池に写ったキツネの姿。自分の持つそれよりおいしそうなブドウを手にしている)こんにちは。どうも。キツネだけに、コンにちは、なんて。……あなた、おいしそうなブドウを持ってらっしゃいますねぇ。わたしのより、こう、粒も大きくて、ゆらゆらして。……どうですか、ひとつお近づきのしるしに、わたしのと(交換を)……いい? いい?(自分がうなづくと池のキツネもうなづく) ダメ? ダメ?(自分が首をふると池のキツネも首をふる) いい? ダメ? どっち? じゃ、こうしましょ。いち、にの、さん、で同時に交換しましょう。いいですね。いち、にの、さん――て言ったらですよ、言ったらですよ。ワン、ツーの、スリー、じゃないですよ。いちにの、いちにの、いちにの、に。戻っちゃダメですね。今度はホントに、今度はホントに。いち、にの、さん!(とブドウを池に写るキツネに投げる。当然ブドウは池の中へ。ドブン!)あ! あ! ブドウ! おいらのブドウが! まだ食べてない……アー! アーーー! アアーーー!
キツネは大声で泣く。
そこにキツネの肩を叩く人が……
肩を叩く人 もしもし。
キツネ アーアーーー!
肩を叩く人 もしもし。
キツネ (ふと振り返る)アエッ?
肩を叩いた人 どうしましたか、そんなに泣いて。
キツネ あなた、どなた?
肩を叩いた人 わたしですか。わたしは神様です。
キツネ か、神様。神様。アーアーーー! ブドウを、ブドウを落っことしちゃったんです。かくかくしかじか、かくかくしかじか……アーアー!
神様 そうですか。かわいそうに。まだ食べてない? では、わたしが取ってきてあげましょう。
キツネ 神様、ブドウを⁈
神様 そうです。わたしは神様です。できないことはありません。ウフ。ドブン!(池の中にもぐっていく)
キツネ ア。ア。神様。神様。ブドウを。お願いします。お願いします……!
神様 (浮かび上がってきて)プハァ! あなたの落としたのは、この金のブドウですか?
キツネ (非常に驚く、戸惑う)き、き、金のブドウ⁈ あ、まぶしっ。まぶしっ。ゴールド! 金のブドウ⁈ あーどうだったかなぁ、金のブドウ! 金のブドウですか! でも良心が。良心が、こんな時に。そうだったかなぁ! そうかもしれないなぁ! いや、でも……!
神様 ちがうのですね。ドブン!(池の中にもぐっていく)
キツネ あ! 待って! 待って! 違うとも何とも言ってない。金のブドウにしとけばよかった。金のブドウ。アア、金のブドウ!
神様 (浮かび上がってきて)プハァ! あなたの落としたのは、この銀のブドウですか?
キツネ 銀! 銀のブドウ! ♪ギン、ギン、ギラ、ギラ! 銀もいいかも! 最近、銀も相場が上がってるそうですねぇ。シルバーですか! でも良心が! ふるさとに残した年老いた両親が! 違う違う。心の良心が。銀……どうしよう……
神様 ドブン!(池の中にもぐっていく)
キツネ 待って神様! 神様! アア、銀にしとけばよかった! 銀! シルバー……!
神様 (浮かび上がってきて)プハァ! あなたの落としたのは、この巨峰ですか?
キツネ キョホーッ! キョホーッ! そうきましたか! 想定外。ジャパニーズグレープ、キョホーッ! それは美味しいそうですねぇ。ギリシャにも評判が……でも、ンン、それはわたしので……………はありません!
神様 (微笑を浮かべ)あなた、まれに見る正直者のキツネですねぇ。キツネにしては珍しい。感心しました。あなたの落としたのは、この普通の山ブドウでしょ。神様なんでもお見通しなんですよ。やぁ、でも感心しました。正直者のあなたには、この山ブドウに、巨砲もつけて差し上げましょう。さようならー。(池の中に消えていく)
キツネ (山ブドウと巨砲を受け取り)ア、神様、神様! ま、ま、いいか。いいか。ね、二つも手に入ったことだし。……というわけなんだよ。
そこはキツネの酒場。今までのキツネが、たまたま隣り合わせたキツネに先の一件をしゃべっている。
後から出てきたキツネ へええ、そうですか、そんなことが。あ、乾杯しましょう。カンパーイ! (ビールをグビグビ飲んで)へえ、そんなことが。
前から出ているキツネ そうなんだよ。驚いたのなんの。
後のキツネ 池に、ブドウを落としたら、神様が、金のブドウ、銀のブドウ……んで、巨砲に山ブドウですか。へええ!
前のキツネ 不思議なことだよ。(ぶどうを食べようとして)どうですか、あなたも一つ。
後のキツネ ア、こりゃどうも。(一粒食べて)こりゃうまいですねぇ! 恐るべしジャパニーズグレープ。(皮と種を出す)へえ、そうですか、神様が。
前のキツネ いやぁ驚いたよ。
後のキツネ (半ば独り言のように)池に、ブドウを落としたら、神様が、金のブドウ、銀のブドウ……ヘヘッ。あ、わたしちょっと用事を思い出しまして……わたしの分の会計は済ましときますんで。どうぞ、どうぞごゆっくり! ヘヘヘッ。(急いで席を立つ)
後のキツネは店を出ると早速、例の池へやってきた。見た目はなんら変わらないので後のキツネもキツネと記す。
キツネ ここが、さっきのキツネさんの言ってた池ですか。この池に、ブドウを落としたら、神様が、金のブドウ、銀のブトウ……ウフフ。わたしね、持ってまいりました。(手にブドウ。しかし小さい。手のひらに乗る小人ほどの大きさ)ちっちゃい! ちっちゃいですが、ブドウはブドウです。これを、池に落としまして、と。で、次は、泣くんでしたね? 泣きますよー。泣きますよー。(大仰にウソ泣きをする)アーアーーー! アアーーー! 池に、こんな、こんな立派なブドウを落っことしちゃったよー! アアーーー!(辺りを振り返って様子を覗き見したりする)
神様 もしもし。もしもし。
キツネ あ、出た、神様!
神様 な、なんです、どうしてわたしが神様だと……?
キツネ (まずいと思いさらにウソ泣き)あ、あ、アーアーーー! アアーーー!
神様 どうしましたか、そんなに泣いて?
キツネ 池に、池に、こんな、こんな立派なブドウを落っことしちゃったんです! 取ってきて。
神様 な、なんですか⁈
キツネ (しまったと思いさらにウソ泣き)アーアーーー! アアーーー!
神様 (キツネの話を聞いて)池に……ブドウを……まだ食べてない! それはかわいそうに。では、わたしが取ってきてあげましょう。ドブン!(池の中にもぐっていく)
キツネ アハハ、神様! お願いします、お願いします。♪金のブドウ。銀のブドウ。金のブドウ。銀のブドウ。ウフフ。(心待ち)
神様 (浮かび上がってきて)プハァ! あなたの落としたのは、この……ちっちゃいブドウですか?
キツネ えええ⁈ いきなり⁈ いきなりそうきましたか! 過程をみんなすっ飛ばして。ん~~どうでしょう⁈ それは……そのブドウは……わたしので……………はありません!
神様 (すべてお見通しでしたよ、という顔をして)あなたね……神様ですよ。なめてもらっちゃ困りますよ。あなた、まれに見るうそつきのキツネですね。あなたの落としたのはこのちっちゃいブドウでしょ。神様なんでもお見通しなんですから。(ちっちゃいブドウを数粒食べる)うまいじゃないですか。プ。(皮を飛ばす。また食べる)ちっちゃいほうがね、味がギュッ、ギュッて締まってうまいんですよ。ププププ。(また皮を飛ばす。フサを残らず一口で食べてしまう)うそはいけませんよ、うそは。ププププププププププ!(皮を口をすぼめてキツネに向けて勢いよく飛ばす)
キツネ (ブドウの皮攻撃に驚きよける)ア、ア、ア、ア、ア!
神様 あなたにはもう何も差し上げません。さようなら~~!(池の中へもぐっていく)
キツネ アアッ、神様! 神様! アアアア! (泣きながら)オオーイ、神様が……神様が! 神様が出たぞー! 神様が出たぞー!
他のキツネたちがやってきて、
他のキツネ なになになに、どうしたの? え? 神様が出たの、神様が⁈ 池に、ブドウを落としたら、神様が、金のブドウ、銀のぶどう? (その他のキツネたちに)おい、聞いたか?
その他のキツネたち 聞いた、聞いた。
他のキツネ おい、ブドウ持ってこいよ。落とせ落とせ。もう一個落とせ。で、どうすんの? 泣くんだってよ。泣け泣け、明るく元気に泣け。
他のキツネは、その他のキツネたちと明るく元気に泣く。
先のキツネは神様が出ないかと池を探す。
キツネたち アッアッアッアッアー! アッアッアッアッアー!……
キツネ (池を必死に探す)
キツネたち アッアッアッアッアー! アッアッアッアッアー!……
キツネ (池を必死に探す)
キツネたち アッアッアッアッアー! アッアッアッアッアー!……
キツネ (池を探すが、何も出てくる気配がない)出ませんね……
他のキツネ 出ねえじゃねえかよ! ウソつくんじゃないよ。おまえみたいなのがいるからね、キツネの評判が落ちちゃうんだよ。忙しいんだよ、こっちは。今から娘が結婚するんだよ……「狐の嫁入り」ってよ。(怒って)いいんだよ、話が違うとか! そっちは日本の話で、今やってるのはイソップだとか。いいんだよ! 忙しいんだよ、こっちは。おまえみたいなのはもう相手にしてらんないよ。(その他にキツネたちに)行こう行こう。
その他のキツネたち 行こう行こう。
他のキツネ 行こう行こう。(行ってしまう)
キツネ (一人になって)アアー、うそつき呼ばわりされちゃった。アーー、アーー!
神様 (池からさっと出てきて)どうしましたか?
キツネ 出た、出た、神様! (他のキツネたちを呼ぶ)神様が出たぞー! 神様が出たぞー!
他のキツネ (やってきて)おいおい、出たの神様が? (その他のキツネたちに)ブドウ持ってこいよ、ブドウ! 箱ごと落とせ、箱ごと! 泣け泣け泣け泣け、明るく元気に楽しく泣け!
キツネたち アッアッアッアッアー! アッアッアッアッアー!……
キツネ (池を必死に探す)
キツネたち アッアッアッアッアー! アッアッアッアッアー!……
キツネ (池を必死に探す)
キツネたち アッアッアッアッアー! アッアッアッアッアー!……
キツネ (池を探すが、何も出てくる気配がない。ごまかし笑い)ヘヘッ。
他のキツネ ヘヘッじゃねえよ。出ねえじゃねえかよ! 忙しいんだよ……いいんだよ、話が違うとか。おまえみたいなのがいるからね、タヌキの下に見られちゃうんだよ。(その他にキツネたちに)おい、行こう行こう。
その他のキツネたち 行こう行こう。
他のキツネ 行こう行こう。(行ってしまう)
キツネ (一人になって)アアー、タヌキの下だって言われちゃった。タヌキの……アーー、アーー!
神様 (池からさっと出てきて)どうしましたか?
キツネ 出た、出た、神様! (他のキツネたちを呼ぶ)神様が出たぞー! 神様が出たぞー!
他のキツネ (やってきて)おいおい、出たの神様が? (その他のキツネたちに)ブドウ持ってこいよ、ブドウ! トラックごと落とせ、トラックごと! 泣け泣け泣け泣け、清く正しく美しく泣け!
キツネたち (宝塚歌劇団の「すみれの花咲く頃」調で)アッアッアッアッアッアー! アッアッアッアー!……
キツネ (池を必死に探す)
キツネたち アッアッアッアッアッアー! アッアッアッアー!……
キツネ (池を必死に探す)
キツネたち アッアッアッアッアッアー! アッアッアッアッアッアー!……
キツネ (池を探すが、何も出てくる気配がない。ごまかし笑い)ヘヘッ。
他のキツネ ヘヘッじゃねえよ! うそつきだねぇ。おまえみたいなうそつきはね、キツネの国にはいられないよ。出てけよ!(キツネを突き飛ばす)
キツネ アッ!
他のキツネ 出てけよ! キツネの国を出てけ!
キツネ アアッ!(キツネの国を追い出されてしまう)
一人とぼとぼ道なき道を歩きながら、
キツネ アア、キツネの国を追い出されちゃった……。冷たい。世間の風は冷たい。ア、ホントに風が……ブルルッ……(だんだん北風が強くなってくる。風をまともに受け)……ウッ、寒ッ。風が! 風が! 北風が! ウウッ! (と急に)あれ?
と急に風が治まり、今度は次第に太陽の熱で暑くなってくる。
キツネ ……ア、暑い。暑ッ。日差しが。太陽が。熱ッ。暑ッ。
とまた北風が。
キツネ ウウッ! サムッ! 風が! 異常気象だ。カツラが飛ぶ、カツラが! はげカツラが! (キツネの毛が強い北風に吹きまくられる。言葉にならない)ウウッ! アウアッ! ウウウウッ!
と思ったら、また太陽が熱くなる。
キツネ あれ? ア、ア、熱いっ! アツアツっ!(足元の地面が焼けた鉄板のように熱くなる。足を必死に踏み替える)アツアツアツアツアツアツアツアツアツアツっ! 熱いトタン屋根の上のキツネ⁈
また北風が吹いて寒くなったり、太陽に焼かれて暑くなったりが急激に交互に襲ってくる。
キツネ サムッ! サムッ! サムッ! アツッ! アツッ! アツッ! サムッ! サムッ! サムッ! アツッ! アツッ! アツッ! サムッ! サムッ! サムッ! アツッ! アツッ! アツッ!……
次第に太陽が優勢になってくる。
キツネ 暑いッ。暑いよッ。アアッ! (キツネは自分の毛皮を脱ぎ捨てる)毛を脱ぐ、毛を! 毛皮を! ハァハァ……あれ? あれれ?(普通の天気に戻っている)なんだよぉ⁈ 北風と太陽がおいらで競争してやがったんだよ……!
キツネは自分の生まれ変わった姿に気づく。
キツネ (毛のない腕や顔を触り)あれ? 毛がない。スベスベ。お肌スベスベ。まったく毛がなぁい。人間みたい。
神様 (はるか天上の彼方に現れて)これこれ、キツネよ。
キツネ ア、神様。ごめんなさい。わたしが悪うございました。
神様 キツネよ、おまえは罰を受けたのです。きょうからおまえはキツネではありません。
キツネ キツネではない⁈ じゃ、わたしはいったいなんなんですか?
神様 きょうからおまえは人間です。
キツネ に、人間⁈
神様 人間です。
キツネ あの? よりによって。SNSで人の悪口ばっかり書いたりする……それだけは……
神様 ダメです。罰です。
キツネ わたしは人間……人間になって、いったい何をすればいいのでしょう?
神様 (非常に感心して)深い質門ですねぇ。あなたからそんな質問が出るとは思っていませんでした。人間として生まれ何をしたらいいのか……わかりません。
キツネ え?
神様 神様まったくわかりません。
キツネ か、神様でしょ?
神様 神様まったくわかりません。人間を創ってこのかた、何をさせたらいいのか、わからずにここまで来てしまいました。
キツネ じゃ、神様今までいったい何をしてきたんですか?
神様 人間の祈りを聞く「だけ」です。
キツネ だけ?
神様 聞くだけです。もうそれだけで精いっぱい。(逆ギレして)いったい何人人間がいると思ってるんですか。六十億とか七十億とか……それもくだらない悩みを……シワが増えたの、脂肪がついたの、年金が少ないの……年金は大切ですけどね。もう聞いてられません!
キツネ でも、わたし……人間……人間として……何かすることを与えてください。
神様 そうですねぇ……ア、人間とキツネの違いわかりますか。人間とキツネの違い……それは手を使えることです、道具を使えることです。おまえにこのペンシル(ペンシルの発音がやたらにいい)をあげましょう。
キツネ ペ、ペンシルを。
神様 このペンシルで、おまえの身の上に起こった愚かな出来事を物語として書くのです。
キツネ ペンシルで物語を……
神様 そして、のちの世の人間たちに教訓として伝えるのです。おまえに物語を書くのにふさわしい名前をあげましょう。(グッとくだけて)ギリシャ生まれでしたね? ギリシャ生まれで物語……ギリシャ生まれで……イソ……イソ……イソジン。
キツネ イソジン⁈ (うがいの真似)ガラガラ、ぺッ。うがい薬の名前じゃないですか⁈
神様 嫌ですか?
キツネ いい名前ですけどね、人間としてはどうでしょう?
神様 そうですか。では、イソ……イソ……あっ、「ップ」にしましょう、「ップ」。上にちっちゃい「ッ」の付いた「ップ」。
キツネ 名前が「ップ」⁈ 子どもにいじめられそう、ップ、ップ、ップ!
神様 嫌ですか。では、イソジンとップを二つを合わせて……田中ゴロハチ。
キツネ 全然合わさってない! それに日本人みたい、田中ゴロハチ。
神様 冗談です。おまえはきょうからイソップです。さようなら~。
キツネ あ、神様。去り際があっさりしてる……。きょうからわたしはイソップ。ペンシルで物語を。フム。ちょっと書いてみよう。(ちょうど舞い落ちてきた枯葉を一つ取って)ア、枯葉が。(ペンシルでお話を書き始める)「きょう……きょうわたしは……リンゴの木を植える」……なんかちょっと話のテイストが違うなぁ! そうか。「きのうのこと」……じゃない。「むかぁしのこと」……お腹をすかせたわたしが……いや、お腹をすかせたキツネが……ブドウ棚にブドウがぶら下がっているのを見て、これを取ろうとしたが、ダメでした。そこで立ち去りながら、ひと言。
「あれが、しっぱい(すっぱい)の始まりだった!」
(おしまい)
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